Childhood #
は一人屋上にいた。
屋根の上にルアンに引き上げてもらって、二人で仰向けに寝そべっている。
誰に見つかる心配も無いこの場所で、は煙草を吹かしていた。
「は〜疲れた。で、ルアンは結局中3をやることにしたんだね。」
中3をやるというのは変な話だ。
しかし、実際そうなのだから何とも言えない。
「まぁ、中々楽しいぞ。人間同士の諍いを見ているのは。」
「趣味悪いね、ルアン。」
元々は黒髪に赤い目のルアンは、赤い目を黒くしている。
どうやらルアンの外見は良いらしく、ファンがいたりもする。
「特に女どもの醜い争いが何とも言えなくてな・・・」
はルアンのその言葉に深くため息をついた。
「こんな中学3年生がいたらやだな・・・現にここにいるけどさ。」
は煙を吐き出した。
「俺は100歳なんてとおに超えてるしな。・・・・お、もうすぐ昼休みが終わる。教室に戻るぞ。」
ルアンはの煙草を取り上げて空に放り投げ、を抱えると、ひらりと屋根から飛び降りた。
にとってルアンは兄、父親。
だからこれはブラコンというのだろうか。
実際戸籍上は従兄弟ということになっているのだが。
「えー、眠い・・・」
「さ、行くぞ」
悪魔のくせに真面目なんだね。
とが言ったらルアンは笑って答えた。
「じゃぁ放課後、迎えに来る。」
「あ、今日は生徒会の集まりだがら、生徒会室に迎えにきて。」
ルアンとはそんなやりとりをして別れた。
はそのまま自分の席にもどると、跡部が前の席にいて、こっちを向いていた。
「お前、あの男と随分仲が良いんだな。」
「従兄弟だしね。」
跡部はの答えに納得していないように舌打ちをする。
これは嫉妬なのだろうか。と>は考えたが、自分のおもちゃが取られたような子供の気分なのだろう、と勝手に自己完結させた。
「あんさんらも十分仲ええと思うで?」
急に関西弁の眼鏡の男が入ってきて、は驚いた。
反対に跡部はうんざりしたような顔で男を見る。
「忍足・・・貴様は他のクラスだろうが。」
「そんな怒らんといて?辞書かして欲しいんやけど」
忍足がそう言うと、跡部はごそごそと鞄をさぐって、辞書を取り出した。
「ほらよ」
「おおきに〜」
忍足はそう言ってに微笑むと、さっさと自分のクラスへと戻っていった。
「誰?」
「忍足。テニス部の奴だ。」
「ふぅん・・テニスねぇ・・・」
は呟いて、先日ルアンとテニスをしたのを思い出した。
今日もストリートテニスでもしにいくか。と言っていたような気がする。
「興味あんだったら俺様が教えてやるぜ?」
「気が向いたらね」
適当に答えておいた。
すると、すぐに次の来訪者が現れた。
「跡部くん、さん、今日の生徒会の集まり、5時30分からになった。今度の音楽鑑賞会について説明するだけだから30分くらいで終わるそうだ。」
1年で生徒会に入ったのは、と跡部と滝だ。
1年から3名も生徒会に入るというのは異例らしく、大分騒がれた。
「分かった。有り難う、滝君。」
「どういたしまして。」
滝は笑って言うと、自分のクラスへと戻っていった。
はすぐにメールで6時頃終わる。とルアンにメールする。
すると、分かった。とすぐにメールが帰ってきた。
「チッ、面倒だな・・・」
「あら、いいんじゃない?今日は体育会系の部活は休みなんだし。」
今日は半年に一度の体育会系の部活の器具整理や、グラウンド整備のため、部活は休みなのだ。
跡部が、面倒なものは面倒だ、と言ったところで、教師が入ってきたので、二人の会話はこれで終わった。
「と、いうことで、来週6月23日の金曜日、朝7時に文化会館の第1ホールに集合して下さい。一年生の跡部君、滝君、さんは、仕事を覚える為だから、 特に仕事は無いけれど、頑張って。誰か質問は?」
生徒会長の波田史哉は質問が出ないのを確認すると、解散と言って席を立った。
「じゃ、またね。」
はさっさと席を立って隣に座っていた跡部にそう言うと、返事も聞かずにさっさと生徒会室を出た。
「あ、ルアン、来てたんだ。」
生徒会室を出ると、生徒会長の波田とルアンが話していた。
「ああ、。帰るか。荷物も持ってきておいた。」
ルアンは波田との会話を打ち切ると、手に持っていたの荷物を見せながら言った。
「波田先輩との話は良いの?」
「ああ、気にしないでいいよ、大した話をしてた訳じゃないしね。」
ルアンが答える代わりに波田が答えた。
「だとよ。さ、帰るぞ。」
ルアンはの頭に手をおいて、ぽんぽんと叩くと、波田に背を向けて歩き出した。
「お疲れさまでした。」
「お疲れさま。」
波田とは一応挨拶を交わし、はルアンを追う。
数歩先でを待っているから、追うという表現はおかしいが。
「クレープが食べたいな。この前公園で売ってたやつ。」
「そうだな。ついでにストリートテニスでもしにいくか。」
「テニス好きだね。」
「すぐに飽きるだろうけどな。」
もっともだ。とは笑った。
そして改めて感じた。
自分は幼児化している、と。
もともとの年齢は20代なのに、おそらく今のの中身の年齢は17や18くらいだ。
まあこの10数年間幼稚園、小学校、と過ごしてきたため、後退してしまったのだろうが。
「教えてやろうか?テニス。」
にやりと意地悪く笑ったルアンをは睨みつけた。
「どうせホームランよ。」
「だから教えてやるって言ってんだ。家にもテニスコートあっただろ?今度教えてやるよ。」
からからと面白そうに笑うこの隣の男が憎らしい。
はふん、とそっぽを向いて、階段を降りた。
「・・・・ルアンはさ、私に兄離れして欲しいの?」
唐突に言われた言葉にルアンは呆気にとられてを見た。
「・・・どうだろうな。どっちもだ。」
「どっちも?」
訝しげには尋ねながら、靴箱から自分の靴を取り出した。
ルアンは既に靴を履き替えての横に立っている。
土足だが、この際無視だ。
「お前は妹とか、娘とか、そんなんだから、やっぱ離れて欲しくはない。だが、俺もいつまでもこうして遊んでる訳にはいかないからな。 多分あと2、3年もすれば、俺は俺の仕事をしなきゃならない。そしたら1ヶ月に1回会えるか会えないかになる。のためにも俺がいなくても普通に暮らせるようにならないと。」
ふむ、とは考えた。
確かに、夜はほとんど一緒に寝てるし(小さい頃から)学校でも行き帰り、お昼は一緒。
自分はルアンがいないと生きていけないかもしれない。と思っては眉間に皺を寄せた。
「おいおい、あんまり考え込むなよ。あと2、3年は一緒にいられるんだし。」
ルアンはくしゃりとの頭を撫でた。
「さ、クレープ食うんだろ?」
靴を履き替えたのを見計らって、ルアンはの手を引いて歩き出した。
「ルアンの奢りでしょ?」
「sure.」
不適に笑うルアンを見て、は頬が緩むのを感じた。
「じゃあ今日から一緒に寝れないね。」
「・・・今年中くらいいいんじゃないか?」
はそう言ったルアンの表情がおかしくて吹き出した。
「おー、いるいる。誰か強そうな奴いねーかなーっと・・・」
は楽しそうに辺を見回すルアンを尻目にクレープにかぶりついた。
「今日は早く寝るんだから、さっさと遊んでさっさと帰るんだよ?」
「わーってるって。」
本当に分かってるの?とは思ったが、それは口にすることは出来なかった。
「は自分の名前を呼ばれて振り返る、ルアンも同時に振り返った。
「あ、景吾だ」
「お前なんでこんなとこに・・・」
跡部はそう言いかけてルアンに気付いた。
「よう、小僧。」
「ふん、こいつと一緒かよ。」
跡部はそう言って、ルアンを見た。
「お前、テニスやんのか?」
「ルアン、景吾はテニス部だよ。」
「ほー」
跡部の代わりにが答えた。
「よし、俺と遊ぶか。ラケットも持ってるみたいだしな。」
「ふん、良いだろう。」
「・・・何でも良いけど早く終わらせてね。早く寝るんだから。」
その言葉に跡部は引っかかりを覚えたが、追求はせずに、コートの中に入った。
「お前からサーブ打って良いぞ。」
ルアンは挑発的に言って、ボールを跡部に渡した。
「後悔すんなよ」
跡部は1、2回ボールを地面にバウンドさせると、高くボールをあげ、打った。
「お、中々良いじゃねーか。」
ルアンは楽しそうに言って軽々と打ち返す。
「お前には負けねーぜ」
跡部も打ち返す。
は早くも詰まらなくなって、ベンチで船を漕ぎ始めた。
暫く、時間がたち、は自分をゆする振動と声で覚醒した。
は目を開き、辺りを見回すと、いつの間にか出来ていたギャラリーを見てびっくりした。
それほど良い試合だったのか?と思ったが如何せん興味が無いので何もそれについては言わなかった。
「終わったんだ?どっちが勝ったの?」
「もちろん俺だ。」
ルアンはそう言って、を担ぎ上げた。
「・・・汗臭い・・・」
悪態をつくと、頭を小突かれた。
「景吾、どう?楽しかった?」
は目の前にいた跡部と目が合って尋ねた。
「フン、まあな。良い腕してやがる。何でテニス部に入らねえんだ?」
「「・・・・」」
ぐっと汗をぬぐいながら言う跡部に、ルアンとは顔を見合わせた。
「「面倒だから・・・?」」
見事にハモった二人の言葉に跡部は思わず脱力した。
「あー疲れたぜ、畜生。しかも負け。待ってろよ。そのうち俺様が打ち負かしてやる。」
どすっとベンチに腰を下ろして跡部はルアンを睨みつけながら言った。
「いつでも相手になってやるさ。・・・ん?、クレープはどうした。」
「クレープ?全部食べた。」
「・・・ッ俺の「ぜんぶ食べた。」
ルアンはがっくりと頭を足れた。
「だって、退屈だったし。また明日買えば良いじゃない。さ、早く帰ろう?」
はルアンの腕から飛び降りて言った。
「早く寝るんだったな。」
「そう。じゃ、また明日ね。景吾。」
「またな、小僧。」
「フン」
跡部はよほど疲れたのか、ベンチに座ったままひらひらと手を振った。
とルアンは20分程で家に到着した。
「おかえりなさいませ、さん、ルアンさん。」
「ただいま、良子さん。」
はにこりと笑って挨拶し、ルアンは軽く挨拶すると、持っていたの荷物と自分の荷物を良子の後ろに控えていた男に渡した。
「まったく、俺に荷物を運ばせるなんて、お前くらいなもんだよ、ルアン。」
「口答えするな、居候の分際で。」
「お前も似たようなもんだろ!?なー、ちゃん?」
「ラインは、うん、居候だね。ルアンは父親みたいなもんだし。」
それにラインは一人ショックを受けて走り去った。
「騒がしい奴だ」
「元気って言ってあげなよ。」
ラインはの親戚で、アメリカ人だ。そして、ルアンの正体を知っている者の一人でもある。
実は、ラインはルアンの仲間の末裔らしい。最も、その血は薄まっているため、人より数十年程長生きし、人より少し、いや、大分?身体能力が優れているというくらいしか 普通の人とは違わないらしいが。
「そういえば明日は3人でデートだから、夕食は大丈夫だよ。」
は自分の上着を持って後ろを歩く良子に言うと、良子はにこりと微笑んで尋ねた。
「分かりました。ゆっくりと楽しんで来てくださいね。お帰りは何時頃になりますか?」
「うーん、10時頃・・かな。」
は考えてから言うと、いつのまにかいないルアンに気がついて、顔をしかめた。
「7時40分か・・・。ルアンのせいで遅くなっちゃった。ご飯、食べても大丈夫?」
「あと10分もすれば用意出来ますよ。」
「じゃあ、30分後に出来るようにして?お風呂に入って来る。」
「分かりました。」
会話が丁度終わったところで、>の部屋の前についた。
「まだ、良子さんも食べてないんしょ?一緒にご飯食べよ。」
「ありがとうございます」
「うん。じゃ。」
二人は笑みを交わして別れた。
「さ、お風呂行こう。」
制服を脱いで、軽い服装になる。
「でも、やっぱり良子さんは落ち着くな〜」
それは、今の家庭でも、そして元の世界の家庭でも、母親と疎遠だったからかもしれない。だから、良子の雰囲気が母親みたいで落ち着くのだろう。
ドアを開けて、浴室まで歩き出す。
腕時計を見ると、7時46分だった。
「と言うことは50分過ぎに入って、8時10分頃には上がれるから、ぎりぎりだな・・・」
浴室まで歩いて8分ほどかかる。無駄に広いのだ、この家は。
しかし、は風呂は20分かかるかかからないか。年頃の女の子にしては短い。
「あれ、いないと思ったらお風呂入ってたんだ。」
途中にある、桐で出来た風呂場が使用中だったのを見て、は一人呟いた。
ルアンはよく好んでこの浴室を使う。
は岩風呂を好んで使うのだが。
さっさと通り過ぎると、岩風呂のある浴室へと入った。
夜11時30分。
「ねー、ルアン。本当にいなくなっちゃうの?」
「・・・だから、2、3年後にな。それにたまには会えるし、ラインが側にいる。あの跡部とかいう小僧もな。」
はぎゅっとルアンの手を握った。
「ほんと、ガキになってる。昔は一人なんて平気だったのに。ルアンが甘やかすからよ。」
「はは、そうだな。俺はに甘い。」
は目をつむった。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
眠い眠いと思っていたのに、は存外に眠れなくてこっそりと溜め息をついた。
「起きろ、間に合わないぞ。」
「んー、朝?」
はゆっくりと体をおこした。
「着替える。」
は一人、自分に言い聞かせるように呟くと、さっさと着替え始めた。
「お前なあ、俺に出て行けとかそれくらい言えよ。」
ルアンはあきれた顔でに背を向けつつ言った。
「・・・ルアンだし、今更じゃない?」
そんなこんなで、手早く準備を済ませると、二人は荷物を持ってダイニングに行った。
「おはようございます。さん、ルアンさん。」
「おはよう。」
席につくと、スープとパンとサラダ、あとフルーツの盛り合わせが用意されていた。
「ヨーグルト、ある?」
「あ、今持っていきます。ルアンさんも食べられますか?」
「俺はいい。」
ルアンは早速パンにかじりつきながら言った。
もジャムをたっぷり塗ると、口に運ぶ。
すぐにの前にヨーグルトが用意された。
「コーヒーと紅茶、どっちにします?」
「「コーヒー」」
重なった二人の声に良子はくすくす笑いながら用意していたコーヒーをカップに注ぎ、の方にはミルクを多めに入れる。
「良子さんのカフェラテ、おいしくて好きだよ。」
「有り難うございます」
は手渡されたラテを飲んだ。
「今日は車で行くか。おい、車を用意しておいてくれ。」
ルアンは控えていたメイドにそう言ったら、そのメイドが返事をする前に別の所から返事が帰って来た。
「お、今日は車か、俺が乗せてってやるよ」
「おはよ。」
「おはよう、ちゃん。」
「あと10分で出る。用意しとけ。」
ルアンはコーヒーをソーサーに置いて、ラインに言った。
「はいはい、じゃあ後でな♪」
ルアンの言葉通り、二人は5分で食事を済ませ、5分で歯を磨いたり身支度を整えると、10分後にエントランスにいた。
「行ってらっしゃいませ」
数名のメイドがそう言い、良子が荷物を手渡した。 ロータリーには既にラインのBMWがいて、2人はそれに乗り込む。
「ラインの車良いよね。私も速く車欲しい・・。」
「あと5年だな。」
「なあ、今日のデート何処に行く?水族館なんていいんじゃね?」
「あ、水族館、行きたい。」
「俺は何処でも良い。そのあと41にさえ行ければ。」
41は、ルアンお気に入りのフレンチレストランで、隣で同じ経営者が経営しているバーがこれまたお気に入りだったりする。
「いいねー、私も飲みた・・」
「ちゃんは頑張っても高校生が良いところだからね。ジュースで我慢だね。」
あはは、と面白そうに笑うラインをは思わず殴った。
「ラインは運転手だから、ラインも飲んじゃ駄目だからね」
は、ふん、と言うと、はっと、自分の鞄を見た。
「そういえば、私、今日英語当たる日だ」
しまったな〜
と思ってぱらぱらとページをめくる。
予習をするのを忘れていたためか、そのページは見事に美しかった。
「昼やるか。午後だろ、その英語。」
ルアンがそう言うので、は頷いた。
「いいな〜俺が教えてあげるよ♪」
「部外者は立ち入り禁止だ。」
ラインが言った言葉にルアンは不機嫌そうに答えた。
ラインは頬を膨らませて抗議しているが、は、実際ラインが来たら騒ぎになるのは分かっていたので、苦笑するに留まった。
何を隠そう、ラインは副業としてたまにモデル活動をしていて、最近日本で発売された雑誌にも載っているのだ。
日本ではそこまで知名度は無いが、知っている人は知っているというヤツで、氷帝にはそういうのに聡い生徒が多いため、見つかったら厄介だったりする。
「とりあえず、昼は家で大人しくしてろ。そして6時に迎えに来い。」
「はいはい。まったくルアンは横暴なんだから、ねーちゃん」
「・・・・まぁ、否定はしないわね。」
「・・・・」
軽くルアンがを諌めたところで学校に到着した。
「じゃ、気をつけてね。」
「学校で何に気をつけろって言うのよ。」
ラインの言葉には肩をすくめて見せると、ラインは身を乗り出してに言った。
「害虫だよ。害虫!」
「・・・・馬鹿?」
は呆れて呟くと車を降りた。
ルアンもそれに続く。
「じゃ、また夕方にね。」
その言葉と共には頬に軽くラインのキスを受けて、それを返した。
「いってらっしゃい」
「うん」
ラインの車が走り去り、はルアンと共に歩き出した。
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