殺生丸はさっさと自分を置いて部屋を出てりんに会いに行く靖伯の背を睨みつけた。


それも束の間、隣で説教を始める邦明の声が聞こえてきて。


・・・・・・はぁ・・・・・・


嘆息しながら重い筆を持ち上げた。














養子 2



























「ふ、ふ〜ん♪」



機嫌良く鼻歌を歌いながら靖伯は廊下を歩く。


どうも面白いことになりそうだ。


くつくつと笑う。

りんの兄になれば堂々とりんと遊べる。



春には花見。
一緒に花見酒なーんて洒落たことをしても良いなぁ〜
夏には海に連れてやって、秋には紅葉を見に山へ行ったり果物狩に連れていってやったり・・・・



楽しげに遊ぶ自分とりん、そして恐らく政務に追われて一緒には来れなくて、殺気立つ殺生丸を思い浮かべて更に笑みを濃くする。



しかし、はた、と立ち止まる。



俺は殺生丸に義兄と、或いは俺が殺生丸を義兄と呼ぶことになる訳か!?



「うう、キショい・・・」


靖伯はぶるり、と身を震わせた。
































「あっ靖伯さま♪」



りんの部屋に入るとそこには茅と和夜に髪を弄られているりんがいた。

加えて畳に広がる多くの着物。
それは部屋の半分をも占めている。



「・・・・・凄ぇな・・・・・」



和夜と茅は靖伯を認めて挨拶をしつつ頭を下げた。
が、その手にはしっかりとりんの髪が握られている。



「さぁ出来ましたわ。」


満足そうに茅と和夜は立ち上がって正面からりんを眺める。


「うふふ、美しいですわ。ねぇ、茅?」


「でも次は着物ですわよ?どれが良いかしら・・・・殺生丸様は好きなだけ仕立てて良いと仰いましたし・・・・」



好きなだけ



その言葉に靖伯は顔を引きつらせた。
今から「好きなだけ」仕立てるのだとしたら、今日を飛んで明日までかかるに違いない。



「今日は止めて明日にしねぇか?」



その言葉に茅と和夜は顔を見合わせた。



「そうだね、茅さんも和夜さんも、今日は、着物を6着も仕立ててくれたし、疲れたでしょ?」



不安そうに見上げるりんに、茅と和夜は嬉しそうに笑ってりんを抱きしめた。



「靖伯様もいらしたことですし、今日はこれで終わりにしますわ。」


「では、また明日御会いしましょう。」



和夜と茅はぱぱっと畳の上に散らばっていた着物を纏めると一礼をして退出した。



「6着か・・・・よく今日一日でそんなに仕立てられたな。」



呆れたように靖伯は言った。



「でも二人ともとっても優しくて、いっぱい悩んでくれたんだよ」



嬉しそうに言うりんに、ふ、と靖伯は笑うと、りんの正面に胡坐をかいた。



「今日は話があって来た。」



それに何だろう、とりんは靖伯を見上げる。



「俺はまどろっこしい言い方はしねぇ。」



真剣な顔付きになる靖伯に、りんも顔を引き締めた。








「お前、俺の妹になる気はあるか?」












「ええええぇぇぇ!?」



りんは思わず素っ頓狂な声を挙げてしまった。


予想通りの反応。
靖伯は緊張を解いた。



「まぁ、何てーんだ?別に嫁に来いって話でも無いし、其処まで深く考えないで良いぞ。唯養子に来いって話なだけだ。」



いやいや、考えなきゃいけないよ。
何言ってんだよ、アンタ。



「でも・・・・」


「まぁ、養子になったからって今までとそう変わることは無い。」



いやいや、変わるって。



「お前は俺の妹になるのは嫌か?」



傷ついた顔したって駄目駄目。(オールツッコミby管理人)



「ううん、嫌じゃない。りん、靖伯さまのこと好きだし・・・。」


「よっし、じゃぁ決まりだな!・・・ああ、でもちょっと問題が・・・・」


なに?

りんは目で尋ねた。



「養子になる手続きの為に暫く、1週間くらいか?それくらいウチに行かなきゃならねぇんだよな。親父にも会わせねぇといけねぇし。」


つまり1週間は殺生丸の城から離れるということ。
りんは、うーん、と呟いた。


やっぱり1週間殺生丸と離れるのは辛い。



「まぁ、殺生丸のことだから3日もすればウチに来ると思うけどな。」


それに、りんは分かったと頷いた。



「りん、靖伯さまの妹になる。きっとそれが良いんだよね。殺生丸さまの為にも。」



聡い子だ。
というか、周りに良く気を配っている。
恐らく自分が靖伯の妹になって身分が上がれば反対派の動きは幾分収まる。と思ったのだろう。
まぁそれは強ち間違っては居ないが・・・。



「よし、じゃぁ明日にでも立つか。誰か連れて行くか?」


りんは少し考えてぶんぶんと頭を横に振った。


「皆城を離れるのは大変だよ。」


「じゃぁ刀菊と万葉だけ連れて行くか。」



護衛として、そして面識があるという点での人選。
特に刀菊においては同じ女性で身の回りの世話も出来るという点が大きい。
そして、利衛、和夜、茅に加えて、殺生丸だけでは無く、りんも主であると認める者を増やす為。
恐らくこの約1週間で刀菊・万葉とりんの間に信頼関係が築かれるであろうことを見越してのことである。











そうして刀菊と万葉には使いをすぐに出し、りんは和夜と茅と共に荷造りをすることとなった。













































そういうことで次回は靖伯低です。
この連載では殺生丸が出てきませんね・・・。
すみません。
でもそのうちたっぷり出てきますから!