「この際、本当にりんを妹にしちまうか〜」
この、本当に何気ない一言が
実現するとは、誰も予想しなかっただろう。
養子
事の始まりは、強羅率いるアンチ人間、御家重視派の進言。
「御考えを改めなさいませ。あの娘は人の子。しかも身分は低い出と聞きます。」
強羅と共にいる数名の者はやはり不服そうな顔で
―ああ、面倒臭い―
殺生丸はうんざりとした顔で強羅の言葉を聞き流していた。
「まだそれ相応の身分ならば良いものの、そのような身分では示しが付きませぬぞ。」
「じゃぁ、りんの身分が良ければイイってことか?」
口を挟むのは他ならぬ靖伯。
その場に居た者全てがいつの間にか入り口にいた靖伯に目を向ける。
「靖伯様・・・・」
マズイのが来たとばかりに呟く強羅に、部屋の入り口でそう言った靖伯はくつくつ笑いながら部屋へと入ってきた。
「そう言うわけでは御座いません。そもそも人間ということに問題が――」
「もう良い。下がれ。」
殺生丸が遮った。
その有無を言わさぬ物言いに、強羅は何か言いたげな表情を見せながらも退出した。
「貴様も余り逆撫でする事をするな。」
退出るすのを待って、溜息交じりに殺生丸は言った。
「まぁ、出来る限りはな。」
「貴様は傍若無人で困るわ。」
靖伯はそれに曖昧に笑った。
お前に言われたくねぇよ。と心中呟きながら。
「あぁ〜・・・、この際りんを妹にしちまうか〜」
「・・・何だと?」
殺生丸はその言葉に耳を疑った。
「いや、りんが俺のこと兄貴みたいだっつーからよ、本当に妹にしちまおうかと。中々良い考えじゃねぇか?」
「まぁ悪くは無いが・・・・。」
確かに靖伯の妹と戸籍上とは言えどもなってしまえば、反対派も今ほど反発はするまい。
反対派は家を重んじている。現にりんの家、身分を言及している。
反発したとしても無碍には出来ないだろう。
だが、思うのは靖伯の父、つまり殺生丸の叔父に当たる狼炎だ。
彼には余り会ったことは無いが、一般的に妖は人間を受け入れない。
「親父なら大丈夫だ。」
それを察したかのように靖伯は言った。
「親父は人間を忌み嫌っているという訳ではないし、そもそも今は隠居。当主は俺だ。」
確かに父・闘牙の弟の狼炎は父に似て寛容であったと記憶している。
「だが、りんの意志を無碍には出来ぬ。まずりんに聞いてからだ。」
「まぁそうだな。・・・・・・よし、今から俺、聞いてくるわ。」
思い立ったら行動。
一人でりんの所へ向かおうとする靖伯を引きとめようと殺生丸は立ち上がった。
「・・・・・・・・・」
それを無言で見て、靖伯は何を思い立ったのか、廊下に顔を出して大きく息を吸い込んだ。
「・・・・・おーい、邦明!殺生丸が逃げようとしてるぞ!!!」
大きく靖伯の声が響く。
そしてその声は政務を取り仕切っている、そして殺生丸が頭の上がらない数少ない人物のうちの一人、邦明を呼んだ。
ばたばたと、隣室から走ってくる音が聞こえ、一人の小柄な男性が現れる。
「殺生丸様、この溜まりに溜まった仕事を前に逃げるとは!私はそのように貴方様を教育した覚えはありませんぞ!!」
何と言ってもこの男は殺生丸の幼少からの教育係。
それに捕まっては流石の殺生丸も無理は出来ない。
「さぁさ、殺生丸さま、席に御付になって。」
それを見て靖伯は、くくく、と忍び笑いを漏らしながら
「まぁ頑張れよ。じゃぁ邦明、またな〜」
と言って、さっさか部屋を出て行った。
続
存外に長くなったので、ここで切ります。
3/27 改稿