獣と私
さわさわと、澄んだ水の音で、フウは目を覚ました。
今までうたた寝をしていた脳味噌は霞がかかったようで、物事を考えることが困難だ。
「あー・・・・何でここにいるんだっけ・・・・」
ぎらぎら光る太陽を避けて木陰にいるものの、耳を突く蝉の声が熱さを感じさせる。
きょろきょろと辺りを見回すと、川の中で暴れる一人の男と、一匹の獣。
というか、ひっくるめて、二匹の獣。
その姿に驚いて立ち上がる。
「あんた何してんのよ!!」
「あ?起きたのか。いや、コイツが俺の魚をよぉ・・・」
と、引き抜いた剣で鋭い爪で襲い掛かる熊に一撃食らわす。
「まァ喜べ!今日は熊鍋だッ!!」
川の澄んでいた水が今やどす黒い赤色に変わって、近くにきたフウの鼻を血の独特の鉄のような臭いがついた。
その臭いに顔をしかめてフウは着物の裾で鼻を覆った。
「はぁ!?熊なんて・・・・食べれる、の・・・?」
そのことに対してか、それとも他の理由があるのか、顔を青ざめながらフウは言った。
それとは反対にムゲンは熊鍋を思い浮かべて今にも涎を垂らしそうな表情で熊に切りかかる。
「大人しく俺様の腹に収まりやがれー!!」
そして、その斬撃は熊の胴体と顔の境を一刀両断し、倒れた熊の首から夥しい量の血液が川の水に混じって流れ始めた。
ムゲンは熊の胴体の部分をひっつかみ、フウを岸に行くように促して自分も岸に上がった。
「さァーて、」
と、嬉しそうに熊を調理するために剣を振り上げた。
そして熊に切っ先をつきたてようとしたとき、隣に音を立てて何かが倒れた。
振り向くと倒れているフウ。
ムゲンは顔を顰めて熊を手放した。
所謂ヤンキー座りでフウを覗き込み、手でフウをつつく。
「おい、大丈夫かよ」
「うーん・・・大丈夫なわけないでしょ〜〜」
フウは地面に手を突いて立ち上がろうとした。
それをムゲンは乱暴に押し戻すと「横になってろ」と言って川へと向かった。
ムゲンは川上に行くと布を水で濡らした。
軽く絞って立ち上がり、再びフウの元へ向かう。
「ほら」
ぺしゃりとフウの顔に布を落とした。
「ぶっ・・・ちょっと、もーちょっと優しく出来ないの!?」
突然落ちてきた布にびっくりして抗議の声をあげるが、その布のひんやりとした気持ちよさにフウはすぐに黙る。
ムゲンはどすん、とフウの横に腰を下ろした。
「・・・ったく、あの眼鏡何処まで行きやがったんだ・・・・」
こういうときに限って居ないジンに悪態をつく。
ムゲンは足元の石を拾って川に向かって投げた。
ぽちゃん、と音がした。
みーん、みーん
蝉は泣き止まない。
隣から聞こえてくるのは微かな寝息。
些か苦しそうな感じがして、温くなったフウの額にある布を取り上げて、再び川へ行った。
そうして川の冷たい水で濡らして、フウの額に乗せての繰り返し。
日は真上から東に移動している。
ムゲンはその背にフウを担ぐと近くの村へと歩き出した。
「うーん・・・」
「ちゃんと掴まってろ」
ムゲンはフウを担ぎなおしながら言った。
太陽はギラギラと上から照り付けて頬を汗が伝う。
耳の後ろからフウの辛そうな息遣いが聞こえてきて、ムゲンはその足を速めた。
暫くして町に着いた。
ムゲンは町に入って最初に会った人を捕まえた。
「なぁ、アンタ、ここに診療所ってあるか?」
男は訝しげにムゲンを見たが、その背にいるぐったりしたフウを見てすぐに診療所へ案内してくれた。
ほ、とムゲンは一息吐き、男に続いた。
続
随分前に日記に書いたボツ小説を手を加えて復活させてみました。
何というか・・・ジンは?というツッコミはせんといて下さい。
其処まで考えてません(笑)
2006.5.7