ぐるぐる回る。
音と、景色と、全てが混ざり合ってマーブル文様を描いていた。
嗚呼、何てきれいなんだろう。
私は思って手を伸ばした。
ここの世界は音速で全てが回ってるみたいだな。
美しすぎて、瞳からは涙が流れた。
Speed of Sound AKATSUKI
暫くそんな美しい世界の中にいたのだけれども、気付いたら全てが「無」と化した。
全てが「無」。
先ほどの世界とは打って変わったこの世界は恐怖と共に居心地の良さを私に与えてくれた。
このまま、闇にとけ込んでしまおう。
全てを放棄して。
そう思って、静かに瞳を閉じたのに、「無」はいつまでも「無」でいてくれなかった。
再び、あの音と映像の混じり合った世界がやってきたのだ。
全てが、洪水のように私の周りを走り去った。
それはほんの一瞬。
音速の世界が通り過ぎると、私は森の中にいた。
何がどうなっているかさっぱり分からなくて、私は頭を抱えた。
「どこだろ、此処・・・」
私はぐるりとあたりを見回した。
どこまでも広がる森に、どこか楽しさを覚えた。
私はすぐに直感した。
ここはアノ世界じゃない。
と。
呼びかけてくる声が、何よりの証拠だった。
呼びかけてくる声・・・さっきから囁いてくる水の声。
100年に一度生まれる「魔女」と言われた私には小さい頃から水の声が聞こえていた。そして今年、15歳になって、完璧に水を操れるようになった。幼い頃、親を祖父に殺され、訓練の日々を強いられ、いつしか水だけが私の理解者になっていて、水と話すのは、私にとって造作のないことだった。
「じゃあ、此処は本当にあの世界じゃないんだ」
面白い。
私は笑みを口の端に浮かべると、何があるかわからないから、水を体の周りに浮かべて歩き出した。
刀を作り出せるぎりぎりの量の水。
それさえあれば、自分で何とか出来る自信があった。
今までそれで数多くの人を殺めてきたのだから。
暫く歩いていると、人の気配がした。
2人いる。と、水が教えてくれたから、私はすぐに刀に水を変化させた。
その刀で腕を切って水の刀に混ぜる。
何たって此処は異世界。
私のように水を使うものがいてもおかしくない。
だから、私はこの水に血を入れて、盟約を結び、私にしか扱えないようにしたのだ。
「嫌な感じ。気配が感じられない・・・・」
私はさっきから感じられない2人の気配に少々戸惑ってしまった。
仕方ない。
私は水脈の位置を確かめて、そこに思い切り刀を突き刺した。
数秒とたたずに水が吹き出し、あたりを濡らすだろう。
そうすればこっちのもの。
水が辺りを支配して、敵の位置は完全に分かるし、うまくいけば捕らえることができる。どうにもこうにも、こちらの世界の情報が欲しかった。
私の思惑通り、すぐに水は吹き出して、敵の位置は容易に分かった。
私が水に囁きかけると、すぐにことは起こった。
数メートル先で水柱がたち、無数の水の針が隠れていた2人を襲った。
「こっちの水は結構攻撃的だな?」
私もさっさと水と彼らの戦いに参加しよう。
「・・・何者ですか、あなたは」
人間ですか?この方。
私はそう思って背の高い、魚のような人を見た。
どうやらこの人も水を使うみたいで、水を媒体にした分身が2人、私の後ろに現れた。
「・・・・こっちの世界では普通に水を使うの?」
私は血を辺を埋め尽くしている水に落とした。
水がいくつかの塊を作って私の前に現れ、後ろにいた、水でつくられた分身を捕らえた。
しかし、あの魚人を象っている水は操ることが出来なくて、軽く唸った。
「・・・・イタチさん、どうやらあの人の周りの水では影分身が作れないようです」
魚人の隣にいる黒髪の男はそれを聞いて少し驚いたように私を見た。
「あなた、水を操るのに血の盟約も結べないの?ほんと、変わったところね、此処は。」
そこで、私が黒髪の男の顔を見ようとしたとき、水が黒髪の男の顔に飛びかかった。黒髪の男は顔を背けて水を避けた。
其れと共に水が私に警告する。
『あの男の目を見てはいけません』
「え?あの人の目を見ちゃいけないの?何で??」
『あの男の目を見ては、そうですね、幻に捕らえられてしまうんです。』
「ふうん・・・面白い魔法を使う人がいるんだね、こっちの人はみんな使えるの?」
私は魚人の振り回す刀を避けながら水に尋ねた。
黒髪の男は水と話す私をいぶかしむように見た。
『いいえ、我も詳しくは・・・・』
私は、は、と水と話すのをやめた。
火の塊がこっちに向かって飛んできたのだ。
魚人はそれを察知して私を残して飛び退き、私は反応が遅れて受け止めるしか無かった。
と言っても水が勝手に守ってくれるんだけどね。
「・・・・何と話をしている。」
ここまできて、黒髪の男が初めて口を開いた。
「この子たちだよ」
私がそう言って腕をのばすと、水が巻き付いてきた。
「だって、私はこっちのこと全然分からないんだから、誰かに教えてもらわなきゃどうしようもないでしょう?貴方たち変な力使うし。」
そして私は血に染まった水の刀を構えた。
さっきから思っていたけれど、彼らと私のスピードの差は歴然。
あいつら、異常に速い。
水があっちからの攻撃を相殺してくれていなきゃ私はきっともう死んでる。
「変な女だ・・・」
そう言って黒髪の男が顎でやれ、と言うと、私はいきなり後ろから羽交い締めにされた。魚人に。
「・・・・」
あっけなく捕まって、私は一人ため息をついた。
すぐに水が渦を巻いて私と魚人の周りを取り巻きだす。
「いいよ、もう。」
2人からは、もう殺気が感じられないのが分かって、私はとりあえずおとなしく捕まってみようと思って、水を止めた。
すると、水は力を無くしたようにばたばたと落ちて、ただの水になった。
ああ、血液を抜かなきゃ、私がいなくなったあと暴走しちゃうじゃない。
そう思ってきちんと自ら血液を分離させて、血液を手のひらにあつめた。
「変な術を使うな。名は?」
「えー、私だけ言うの?」
「・・・うちはイタチだ。そっちが鬼鮫だ。」
「私は。よろしく。」
私はそう言って握手を求めようとしたけど、後ろの鬼鮫さんとやらに羽交い締めにされているのを思い出して、鬼鮫さんを見上げた。
「こっちには握手っていう風習が無いの?」
言外に離せ。と言うと、鬼鮫さんはイタチさんを伺うように見た。
私もにこりと笑ってイタチさんを見ると、イタチさんはため息をついて、離してやれと言った。
すぐに拘束が解かれ、私は改めて手を差し出した。
「よろしく。」
イタチさんは無視するだろうな。と思ったけど、そっけなく握手を交わしてくれた。
鬼鮫さんはもちろん握手をしてくれて私は上機嫌。
開放感が、心地よくて、うっとりと瞳を閉じた。
自由。
今なら空も飛べそうな気がする、と、思ったけれど、そこは思いとどまって、にっこりと2人に笑いかけた。
「とりあえずアジトに連れて行く。」
「そうですね・・・」
イタチさんと鬼鮫さんは何やらそんな会話を交わすと、私の方を見た。
「どうかした?」
イタチさんは私の方へ来ると、
「足は速いか?」
と聞いてきた。
実際私は足は速い。と思っていた。
しかし、この2人の速さは異常だ。
はっきり言って、人間じゃない。
「多分、速い方だけど、イタチさんとか鬼鮫さんに比べたら大分遅いと思う」
イタチさんはそれを聞いて、「そうか」と頷くと、私を小脇に抱えた。
「え、」
「お前の足に合わせていたら時間がかかりすぎるからな。」
ごもっとも。
「そうだね。それに私も今はあまり走りたい気分じゃないし。助かる。」
それを最後に私たち(と言っても実際にはイタチさんと鬼鮫さんだけど)は走り出した。
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