君は俺を知らないようだが、俺は君を知っている。

あの病院に行くたび、病人に優しく笑いかける姿が目に入る。

何度も何度も目にするだびに、俺は彼女を眼で追うようになり・・・・

その笑顔を、いつしか俺は求めるようになっていた。






















A Thousand smiles 2























軍の訓練所での爆発事件が起きて、その場にいた負傷者は全てあの軍の病院へと運ばれた。


その3時間後、その喧騒の中現場処理をしていた部下が、一人の軍人の死体を見つけた。
死体は明らかにあの爆発によって死んだものではなく、ナイフで首を切られて死んだのだというのは明らかだった。

そして、その死体には身分を示すIDプレートと、軍から支給されている服が剥ぎ取られていた。
何者かがそのIDプレートと服で軍内部の人間になりすましているということだ。

その場に居た軍人は全て病院に送られていたため、真っ先に病院に手を回したものの、犯人が捕まる事はなかった。
殺生丸も無駄と思いつつ病院に向かうことにした。
駐車場について、全ての車がパンクさせられているのを見て、無駄足だったのが明確になった。
既に犯人は此処には居ない。


そう分かっている。
そのまま去るつもりだった。

しかし、そこに彼女の車があって


何となく、暫く待ってみよう。と思った。






自分の優れた第六感に感服する。
何せ、本当にその1時間後彼女が現れたのだから。

















「邪見、客室を一つ用意しろ。」


邪見は「今すぐに。」と返事をしながら主の腕の中にいる女性を見た。
見るところ中学生か高校生。
主はどういうつもりなのか、と疑問に思ったが、客室を用意するのを先決とし、さっさと主の前から姿を消した。


殺生丸はりんを抱き上げたまま、居間へと進む。
そこのソファに横たえると、先程届いたらしい朝刊を手に取った。



【軍施設で爆発事件!?】
昨日夜11時、訓練施設で原因不明の爆発が起きた。
負傷者は29名。
訓練が終わる時分の事件だった。







新聞には続いてつらつらと書かれてある。
どうやら死者無しという記述を見ると、あのことは漏れては居ないようで、ひとまず安堵する。







「うぅ〜・・・・」


隣からそんな声が聞こえてきて、殺生丸は新聞から隣で横になっているりんに目を向ける。


「起きたのか?」


「・・・・・・・・?」


ぱちりと目を覚まし、見上げる先に殺生丸の見下ろしている顔があるのに、状況を把握しきれずにいる。


「えーと、りん、車に乗って・・・・・」


思い返している様子が可愛らしい。


「君は警戒心が無さ過ぎるな。知りもしない男の車で寝るとは。」


りんはそう言われて自分が車の中で眠ってしまったことに気が付く。


「ここは私の家だ。」


「あっ、りんが家の場所言わなかったから」


慌てて起き上がって頭を下げる。


「ごめんなさい」


「・・・・良い、気にするな。今部屋を用意させてるから今日はそこで休め。」


りんはその言葉に断ろうと思ったが、どっちみち帰る足が無い。
まだバスも運行しているか怪しい時間である。
そして、家に辿りつくまで起きている自信が無かった。


「じゃぁ、お世話になります。」


丁度その時邪見が降りてきた。


「客室の用意が出来ました。」


殺生丸は頷くと、「来い」とりんに言って、ソファから立ち上がった。
それに、邪見に挨拶しながらついていくりん。


全く相変わらず主は何考えているか分からない


邪見はぶつぶつ言いながらコーヒーを淹れることにした。









客室に案内されたりんは、その立派さに驚いていた。


「気に入らぬか?」


それに勘違いする殺生丸は、そう尋ねるが、りんは勢い良く首を横に振った。


「いや、りんには立派過ぎるから・・・びっくりしちゃって」


にっこりと笑うりんは、やっぱり可愛らしくて、殺生丸は自分の欲を押さえ込んで、


「今日はもう休め」


と言って部屋を後にしようとした。


「おやすみなさい、殺生丸さま」


という声を後ろから掛けられて、ああ。と、短く答えて本当に今度こそ部屋を後にした。




そのまま自分も眠ろうかと思ったが、思い直して下へと降りた。

ソファに腰を下ろし、用意されていたコーヒーを一口飲む。
そして携帯を取り出した。


「・・・・・殺生丸だ。今日は有給を取る。」


電話の先で部下が『ええっ困りますよ!書類が・・・・』と嘆く声がするが、


「適当にやっておけ。あと、調べて欲しいんだが、軍病院の、りんという看護士が今日休みかどうか調べてくれ。」


『えーと、ちょっと待ってくださいね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えぇーと、あ、今日は休みになってますね。どうやら今日の朝方まで例の事件で仕事に追われていた看護士は休みになってるみたいですよ。』


「そうか。明日の午前締め切りの書類があったら持って来い。頼んだぞ。」


一方的に言って、殺生丸は切った。



そうして、コーヒーを飲みながら残りの記事に目を通すと、シャワーを浴びて自室に戻っていった。










二人が起きたのは昼だった。







































何も言うまい・・・