殺生丸は瞳を閉じてあの時のことを思案した。


思い浮かぶのは後悔の念のみで、自然と眉間の皺は深くなるばかり。






















sideα 2. 二人の回想 壱































「何で!?・・・っ!!」



人里に帰す。


これはりんを拾ってから考えていたこと。



その旨を告げ、人里近くでりんを置いて殺生丸はふわりと空に飛び上がった。



阿吽と、その背にいる邪見は何度も何度もりんを振り返ったが、殺生丸は決して振り向こうとしない。



「やだっやだー!!」



遠くにりんが涙混じりに叫ぶ声が聞こえてきて、邪見は涙を浮かべ、殺生丸を見た。



「・・・行くぞ」





殺生丸は自分に言い聞かせる。
これで良かったのだと。
人に自分の生は辛すぎるのだと。






決してもう会うまいと心に決めはしたものの、気がかりで仕方がない。








りんを置いてきて数週間後、殺生丸はりんのいる筈の村付近の森に居た。

遠くの気配を探るように瞳を閉じ、神経を研ぎ澄ませる。


様子を見に来るのは今回のみだと思って赴いた。


しかしそう思いながらこの地に来るのはもう十数回になる。





そんなに気になるなら手放さなければ良かったのに。


邪見はそう思うが口にはしない。
どんな思いで殺生丸がりんを手放したのかを知っているから。



こうして一週間に一回ほど、時には邪見・阿吽を伴って殺生丸はこの場所に訪れた。
ただただ、りんの気配を探って無事を確かめる為に。










そうして半年も経った頃、一旦西国に帰っていた邪見が慌てて殺生丸の元へ戻ってきた。



如何したと問われて邪見はしどろもどろに答えた。



「蝦屍が反乱を起こしたようです」



チッ

殺生丸は舌打ちを打った。


蝦屍は西国の中でも有数の数を誇る妖怪の種族で、それが蜂起したのならば少々厄介なのだ。
だが、今西国はある男が殺生丸の代わりに治めているということを思い立つ。



「靖伯は何をしておるのだ」


「それが、靖伯様は殺生丸様を探しにふらりと数日前西国を出立して不在でして、どうも蝦屍どもも靖伯様の不在を狙ったようでして・・・」



殺生丸は無表情のまま立ち上がった。



「仕方あるまい、戻るぞ、邪見。」




そうして、蝦屍との戦は一ヶ月程続いた。


















一ヶ月が経ち、漸く戦火も下火になった頃、殺生丸は後を他のものに任せてりんの様子を邪見と共に見に行った。

しかし行ってみればどうだ。

村があったであろう残骸が広がっているのみ。
なお悪いことに土石流と併発した洪水の為にりんの匂いは掻き消えてしまい、その匂いを辿ることは不可能だった。



「こ、これは・・・・」



邪見はショックを隠せない顔でその場にへたり込んだ。



「この有様ではりんはもう・・・」



殺生丸は静かに飛び上がると周りの村々を回った。


しかし気配を探れど、匂いを探れどりんは見つからなかった。



焦燥感が殺生丸を襲い、殺生丸は西国へ戻りつつも、りんを探し続けた。

















殺生丸は瞳を開いた。
結局今日までりんの行方は分からずじまいだ。




とりあえず靖伯を呼び戻して仕事をさせようと文を書く手を動かし始めた。
























場所は変わって靖伯の館付近の湖。


靖伯は一人水遊びをするりんを眺めながらぼおっと思い出していた。
りんを見つけた時のことを。






靖伯は中々帰って来ない殺生丸を探しにふらふらと彷徨っていた。
殺生丸探しというのは名目で、実際は日々こなさなければならない仕事の量(本来なら殺生丸がする筈の)に嫌気が差しただけだったりする。

其処でふらりと一人で旅をするのはどういうものかと思って西国を後にしたが、2日で飽きてしまった。


仕方がない、城に帰るか。と思ったとき、風に乗って殺生丸の匂いを嗅ぎ取った。


さっそく引きずってでも連れ帰ろうと匂いを辿って行くと、ある村付近にある森の岩場にたどり着いた。


しかし、其処には殺生丸は居らず、唯最近までここに殺生丸がいたというのが分かるだけ。




こんな所で何を・・・と思っていると、遠くで悲鳴が聞こえてきた。

興味は無かったが、まぁ様子を見てみるかと靖伯は飛び立った。





どうやら村は土石流と洪水の被害を被っているようで、人々はそれに押し流されたり取り残されたりで悲鳴をあげている。


少し離れたところでその様子を眺めていた靖伯だが、数メートル先で大木に引っかかっている少女を見つけた。



勢い良く流れる土石流に身体は打ち付けられ、かろうじて大木に引っかかって其処に留まっている。
流されるのも時間の問題と思われる。



「・・・・」



何の気まぐれか、靖伯は少女を拾い上げた。

着物は泥で茶色に染まり、顔も泥にまみれ、息がしにくそうだ。


靖伯は顔を拭ってやり、少女を抱えた。



背中には真新しい傷が出来ていて、その傷はざっくりと開いていて痛々しい。



このまま捨てて死ぬのも後味が悪くて、靖伯は少し思案したのち、自分の館に連れ帰った。






































回想編です。
まだ回想編は続きます。
ではでは感想お待ちしております♪


2006.5.7