「何?りんの案内は利衛がする筈では無かったのか?」


ぴたり。と、殺生丸の筆が止まった。

「いえ、それが靖伯様が案内すると言い出しまして。」


書類を机の上に置きながら下官は答えた。


「・・・・・・」


若干部屋の温度が下がったように下官が感じたのは、恐らく気のせいではないだろう。











靖伯とりん2

























「あっ阿吽だ!」


りんは靖伯の腕から飛び降りると、草を食んでいる阿吽へと走り出した。



「やれやれ、元気な娘だ」


靖伯はのろのろとりんを追いかけながら呟く。

阿吽はりんに気づくと、両頭でりんを見つめた。
そして抱きついてくるりんに二つの顔を摺り寄せる。


「何だァ?阿吽のヤツ、随分丸くなったじゃねぇか。飼い主に似るってやつか?」


以前だったら決してこのようなことをさせる騎獣ではない阿吽を見て、最近丸くなった(あくまでも以前に比べて)飼い主・殺生丸を思い浮かべる。




「ねぇ、靖伯さまは、小さい頃の殺生丸さまを知ってるの?」


阿吽を撫でながらりんは尋ねた。


「まァな。こーんなちっせぇ頃から知ってるぜ?」


両手で身長を示す。


「えっじゃぁ、りんよりも小さい頃から知ってるんだぁ。何か変な感じ。殺生丸さまが小さいのって想像出来ないや。」


「あー、アイツのこと、初対面の時女に間違えてよ。・・・・・・・・凄ぇ怖かった・・・・・・」





殺生丸っていうから男だと思ってたけど、女だったのか

初対面のとき、殺生丸にそう言った靖伯は、その時のことをこう語る。



「もう、何てーの?殺生丸は何か言う訳じゃなかったんだけどよ、無言の重圧ってーか、目が怖かった・・・・。」


思い出して身震いする靖伯にりんは笑いながら「大丈夫?」と尋ねた。


「まぁその後は時々一緒に稽古を受けたりしてたから、まぁ他の奴らに比べたら『仲良し』ってやつだったのかもな。」


「ふぅん・・・。」


りんはそう言いながら恨めしげに靖伯を見上げる。


「ん?」


恨めしげな視線が刺さってくるのに気づいて、りんを不思議そうに見下ろした。


「りんも殺生丸さまのちいさい頃、見たかった・・・・。」


「・・・・・っくっははは!!」


その言葉に溜まらず笑い出す靖伯。


「な、何で笑うの!?」


「いや、りんは可愛いなーって」


そうして、可愛い可愛いと頬ずりをしていると、靖伯の後頭部に衝撃が走った。



「っっってぇ〜〜〜〜!!」

「殺生丸さまっ!」


靖伯はりんを抱えたまましゃがみ込み、その肩口からりんが顔を覗かせる。


「貴様、余程その首、要らぬと見える。」


殺生丸の鋭い爪が怪しく光る。


「あぁ?んな訳ねーだろ!・・・・ったく、痛ぇなァ〜」


後頭部をさすりさすり、ゆっくりりんを下ろしながら立ち上がる。


「殺生丸さま、お仕事はもう良いの?」


りんは殺生丸に駆け寄ると嬉しそうに微笑みながら言った。


「・・・・む、・・・あぁ。」


殺生丸は一瞬目を泳がせてからそう言った。

その顔は涼しげでありながら、何処か焦りを感じさせる。






無邪気な顔して、酷な事を聞きやがる。


くつくつと笑みを零しながら思うのは靖伯。


「何だ、靖伯」


笑われているのに気づき、殺生丸は不機嫌そうに言った。



「あ〜何でもねぇよ」


笑みを顔に貼り付けたまま靖伯は踵を返した。


「靖伯さま、何処に行くの?」


歩き出そうと踏み出した足をぴたりと止めて、靖伯は振り返った。


「誰かさんがほったらかした仕事を代わりにやってやろーかと思ってな。」


「誰かさん?」


思い当たる節が無くて聞き返す。


「そうそう。おい、殺生丸!今日だけだからな!」


その言葉に、誰かさん=殺生丸ということに気づき、りんは殺生丸を非難の目で見る。


「殺生丸さま・・・・・」


「靖伯・・・・!」


振り向いた靖伯は意地の悪い笑みを浮かべていた。



そうして殺生丸とりんは残りの時間を二人で過ごした。




































ああ、ここまで長くなる予定じゃ無かったのに・・・・。
次からはちゃんと殺を出しますから!
すみませんでした(汗)