「お前面白ぇな」

と。

靖伯はりんの頭をがしがしと撫でながら豪快に笑った。















靖伯とりん



















「明日になれば城を見せてやる」


の言葉空しく、殺生丸は政務に追われていた。


今まで自分の代わりに政務をこなしていた靖伯は「今日からお前がやれ」の一言で全てを殺生丸に押し付け、(今まで殺生丸が靖伯に押し付けていただけなのだが)靖伯は久方ぶりの長期休暇を勝手に取ってしまった。

その為、城の案内役は、殺生丸ではなく、靖伯に回ってきた。
というか利衛が代わりにすることになってたのだが、それを靖伯が自分がやると言い出したのだ。
もちろん利衛が靖伯の強い申し出を断る理由もなく、結局は靖伯がりんを案内することになった。










「よっしゃ、りん。お前内殿ばっかじゃつまんねえだろ?」


「うんっ」


「今日は俺が外殿に連れてってやる。」


靖伯はそう言うと、りんを拾い上げた。
それにりんは多少びっくりしながらも、靖伯の柔らかな笑顔が何だか嬉しくて、その笑顔につられてへらっと笑った。





「あ。」


靖伯はそのまま歩き出そうとしたが、思い出したように立ち止まった。


「?」


それを不思議そうに見上げると、苦虫を噛み潰したかのような表情の靖伯と目が合った。



「あ〜・・・・でも外殿にはなァ〜・・・・」


「外殿には?」


「すっげぇ嫌なヤツが居たり居なかったり。」


思い浮かべるのも嫌なように顔を顰めながら言って続けた。


「そいつらが妙に絡んでくるんだよな〜。だから、外殿にいる間は絶対俺から離れんなよ?」



「うんっ!」



















場所は未だ内殿。

内殿を歩き回るのも初めてのようなものであるにも関わらず、りんの顔からは緊張といった類のものは感じられない。



「大体よ、内殿は娯楽要素が無さ過ぎるんだよな。宴会も無ければ賭博場も無ぇ。」


ふんふん。とりんは靖伯を見上げながら靖伯の話を聞く。


「まァりんにはまだどっちも早ぇけどな。」


りんは豪快に笑う靖伯が嫌いではなかった。
むしろ、自分に向ける優しい眼差しが何処と無く兄に似ていて、好きだった。

自分の撫でる大きな手。
自分を抱える、殺生丸とは違った、まるで親や兄のような暖かな腕。

殺生丸といるのとはまた違う安心感。





ああ・・・靖伯さまってお兄みたい・・・・









「そうだ、厩に行ってみるか。あそこには阿吽がいる。お前、阿吽と仲が良いんだろ?」


それにりんは嬉しそうに頷いた。


「りんね、阿吽にいっぱい守ってもらったんだぁ。阿吽は殺生丸さまに似てとっても優しいんだよ?」


「ははっ殺生丸が優しい。か。」


靖伯は『優しい殺生丸』が想像できなくて、少し考えてみる。
が、どうしても思い浮かぶのは、あの冷ややかな表情、むすりとした表情、皮肉った笑みのみ。
可愛いらしかった幼少時代は余りにも昔過ぎて、記憶が霞んでしまう。



そうして内殿から外殿に場所が移った。

やっぱり周りからは奇異の視線が突き刺さってきて、靖伯は不機嫌そうに眉を顰めた。


「何だ、あいつら。」


りんはそんな靖伯に曖昧に笑う。
自分の立場は理解しているらしく、その姿が愛らしい。




「おい、お前。何か用でもあんのか?」


靖伯は近くで自分たちを見ていた鬼に近寄って言った。

鬼は「滅相も御座いません、靖伯様!」と慌てて頭を下げるが、靖伯は不機嫌そうに鼻を鳴らすだけだった。

それを見て、靖伯とりんに奇異の目を向けていた者は慌てて目を背け、それに満足した靖伯は、悪戯めいた表情で、それでいて優しい眼差しでりんを見下ろした。



「・・・・靖伯さまって、お兄ちゃんみたい・・・・」


その優しい眼差しは兄にとても似ている。


思わずりんはそう呟いてしまって、慌てて口を両手で塞いだ。
そしてバツが悪そうに靖伯を見上げる。


靖伯はそれに豪快に笑うと、「そうだ。」と何か閃いたように呟いた。

どうしたのか、と、見上げてくるりんに、にやりと笑うと、声を高らかに言った。



「おい、お前ら、コイツは俺の妹だ。いいか?こいつに何かしたら俺が黙ってねぇからな。良く覚えとけ!」


そうして再び豪快に笑って唖然とする周りを押しのけて進んで行こうとした。
が、何者かに呼び止められる。




「・・・どういうことですかな、靖伯様。」


そう聞き咎めたのは重鎮の強羅。


「おお、これは強羅殿。どういうこと、とは?」


靖伯はにやりとした笑みを浮かべたまま、強羅という屈強な体を持つ、体は人間、顔は犬の男に向き直った。


「人間の娘を妹などと。ご冗談も甚だしいですな。」


りんは靖伯の首にしがみつき、顔を埋めた。


「はっ。種族なんぞ関係ないさ。俺が妹だと言ったら妹。不服か?」


靖伯の瞳に剣呑な光が宿る。

殺気を放つ靖伯に強羅は身を竦ませた。


「・・・・まぁ、貴公が受け入れられんのも仕方ないか。」


さっと靖伯は殺気を治めて肩をすくめた。





「だが、さっき俺が言ったのは覚えておいた方が良いかもしれんぞ?」


靖伯は茶化すように言って、踵を返した。


後ろからは強羅を筆頭に厳しい視線が突き刺さってくる。







「・・・・・靖伯さま、あんなこと言っちゃって大丈夫なの?」


りんは場の空気には聡い。


「あぁ、この城で俺に逆らえる奴っていやぁ、ほんの何人かだ。案外、すげー奴なんだぜ?俺って。」


靖伯はりんを安心させるように頭をくしゃくしゃと撫でた。


「やっぱり殺生丸さまの従兄弟なんだね。優しいところがそっくり。」



その言葉に靖伯は笑った。


「お前面白ぇな」


面白そうに、そして優しい眼差しで笑う靖伯。


それが何だかくすぐったくてりんも笑う。




だが、靖伯は若干不安に抱いていた。
強羅率いる数名。
人間に良い感情は抱いていないのは明らかで、殺生丸にも進言するつもりだという話を今日、小耳に挟んだばかりだ。



暫く、りんには俺がついてやった方が良いかもなァ〜・・・

ま、休暇はたっぷりあるし、暫くりんと遊んで暮らすか。



靖伯はそう考え、悔しがる殺生丸を思い浮かべて一人ほくそ笑んだ。




「今度どっか遊びに行くか。殺生丸は暫く政務に追われるだろうし。」


りんは、少し寂しそうな表情をしたが、すぐに嬉しそうに返事をした。




しばらくして、外殿の出口に達した。
靖伯は何の躊躇いもなく外殿を出ようとしたとき、外殿を出るところにいる守り人がりんを外殿から連れ出す靖伯を呼び止めた。


「あー、厩に行くだけだ。」


と、言ってさっさと通り抜けてしまった。
守り人は恐らく外殿からりんを出すな。と、殺生丸に言われていたのだろう。
二人の守り人は困ったように顔を見合わせて何やら話し合って、「すぐにお戻り下さいね!」と後ろから呼びかけ、靖伯はひらひらと手を振って応えた。













靖伯とりん2に続く



















題名どおり靖伯とりんの話です。
オリキャラ、出張っててすみません(汗)
感想、激しくお待ちしとります。