※この話では大分殺生丸が壊れてます。
イメージを壊したくない方は読まない方が良いかと・・・
そして、この話は、一応「養子」の後の話となっております。設定はそちらをご参照下さいませ♪
嗚呼・・・
何時から主はこのようになられてしまわれたのか。
嘆かわしい・・・・
その言葉を、その場にいた人々はただ飲み込むしかなかった。
殺生丸の一番
内殿からの使いは内心大いにびくつきながら殺生丸の執務室へと入った。
「入れ」
と、無機質に紡がれる言葉に使者はいつも冷静な殺生丸を思い浮かべ、ほっと一息つくのだが、甘かった。
そう、普段は冷静沈着、冷徹非情な男と名高い主であるのだが、ただ、ひとつ。
たったひとつだけ、普段の主からは想像もつかない程の感情豊かな主へと変えてしまうことがある。
それは。
主が随分前に連れてきた人間の女性のこと。
「りん様が風邪でお倒れになられたそうです」
そう告げた途端。
先程の落ち着き払った様子は一変し、殺生丸は手にしていた筆を折ると勢い良く立ち上がった。
「・・・・・何だと?」
ぴくりと、秀麗な眉が動き、瞳は剣呑な光を宿す。
心なしか、部屋の気温が下がった気がして、使者はひたすら頭を下げた。
そうして殺生丸はつかつかと使者を押しのけて歩き出したのだが、仕事をしろ、と言う度胸は彼には無かった。
今までいた執務室には山のように積まれた書。
執務室から主が脱走したと知らせを受けた邪見やその他の駆けつけた重鎮がそれを見て頭を抱えたのは言うまでも無い。
何ということだ・・・
私が側に居ないばかりに、りんが風邪など・・・
嗚呼・・私は何と言う愚か者であろうか
すまぬ、りん!!
其の前に何処のどいつが、誰の許可を貰ってりんに風邪をひかせたというのか・・・!
唯では置かぬ・・・・!!
いやいや、んな事あるかい。
人間風邪引く時には風邪ひくんじゃー!!
とお思いになられる方。
その通りです。
しかしながら、先程言った通り、殺生丸はりんの事になると頭のネジが数十本ほど飛んでしまうようで。
つかつかと、足を速めて歩くと間もなくしてりんの部屋へとついた。
部屋を空けると利衛や刀菊、万葉、そして靖伯がいて、4人は何事かと殺生丸を見上げる。
靖伯は
また殺生丸の奴、仕事ほったらかして来やがったな・・・
くそ、後で邪見に愚痴られそうだぜ。
てか、俺も仕事を手伝う羽目になるんだろうなァ・・・
こんの馬鹿殿が〜
と内心で悪態をつくものの、流石幼馴染とだけあって、靖伯が何を考えているのかおおよその予想がつく殺生丸はふん、と軽く靖伯を睨んだ。
りんは薬が効いていてぐっすると眠り込んでいる。
これを見て一安心すると、殺生丸はりんの詳細を聞こうと利衛に目を向けるが、利衛は内殿の仕事の為退出してしまった。
刀菊と万葉は居心地悪げにしている。
どれに聞くか・・・
と思っていたところ、靖伯が話しかけてきた。
「唯の風邪だ。さっさと仕事に戻れ。」
しっしっ、と手で追い払うような仕草をしながら言う靖伯に殺生丸は眉を顰める。
「貴様、何様のつもりだ。ここは私の城だぞ」
「うるせーよ。ったく、最近たるんでるぞ、お前。」
たるんでる?
確かに最近運動(というか戦闘?)はしていないが・・・・
ああ・・・そうか。
それはこの前仕事ほったらかしてピクニックに行ったことをいっているのかか?
はたまた温泉?
それとも愚弟のところに行ったことか?(これはりんの頼みで仕方なくだったが)
いやいや、出張先にりんを連れて行ったこと。という線を捨てられぬな・・・。
いや、もしや・・・
思い当たる節が多すぎる。
殺生丸はそう思い当たって思考を一旦止めて、りんを見た。
すうすうと健やかに眠る顔。
「ホラ、大丈夫だからさっさと戻れって。とばっちりを食うのは俺なんだぞ」
結局保身かよ。
というのは否めないが、確かに最近政務をサボってるのは事実。
殺生丸は盛大に溜息をつくと、すごすごとりんの部屋を出た。
「暫く帰ってくるなよ」
靖伯の悪態を殺生丸が聞き逃すハズが無く、数時間後、靖伯も政務の為に呼び出しが掛かった。
もちろん殺生丸の仕業で、その仕事の大半が殺生丸の仕事である。
それは分かっていても逃げる訳にはいかず、靖伯もすごすごと肩を落としてりんの部屋を出て行くのであった。
靖伯は出て行き際に、りんの傍らに腰を下ろし、そっと頬に口付けた。
もちろん靖伯には、りんに対する恋愛感情などない。
あるのは唯、兄が妹に抱くような感情。
それは分かっていても回りは心を恐怖に震わせる。
このようなことを主が知ったらどうなるだろうか。と。
実際、殺生丸は知っている。
だが、殺生丸にはこの従姉妹兼幼馴染がどういう気持ちでりんに接しているのかは十分過ぎるほど分かっているものの、不愉快であるのは当たり前。
しかし、靖伯の家にりんが養子に入って、本当に妹になってしまったのだから、そこらへんを追求する訳にもいかない。
結局は昔も今も、己は靖伯に強く出れないということである。