思い沈黙の中、ドラコとヒイロは浴場へと歩いていた。
ドラコはそこらへんに無頓着なのか、どうなのかは知らないが、飄々と歩き続けている。
「・・・・着いたぞ」
沈黙を破ったのはヒイロのその言葉。
「着替えはここに・・・・・・」
脱衣所に入り、説明をしようとした時に、ドラコのものと思われる着替えの横に見慣れた夜着と、見慣れた筆跡で書かれた紙があるのに気づいて、ヒイロは目を見張った。
「どうしたんですか?」
ヒイロはその紙を手に取ったまま固まっている。
それを不審に思ってドラコが紙を覗き込むと、
貴方もドラコさんと入浴して、色々話してみて下さい。
人と余り親しまない貴方には良い機会だわ。
ちゃんと着替えは用意しておきました。
リリーナ
ヒイロはその紙を破るに破れず、諦めて紙を元の位置に戻した。
「・・・・・と、いうことだそうだ。」
憮然としているが、どうやらリリーナには逆らえないのか、ドラコと入浴することにするらしく、乱暴に上着を棚に投げ入れた。
ドラコもそれに習って棚に衣服を脱ぎ入れ、ヒイロに続いて浴室へと入っていった。
中は大理石の大きな浴槽というか、温泉規模のものがあり、装飾が繊細で美しく、その様相からは歴史を感じさせる。
(中々悪くないな・・・)
と、滅多に自分のものと比較して褒めないドラコも納得させられる。
それはこの城自体にも言えるのだが。
それはさておき、ドラコは困っていた。
何せ、相手がこの青年では何を話せば良いのか分からなく、重い沈黙が続いてしまうのだ。
嗚呼・・・何故僕がこんなに気にしなきゃならないんだ・・・。
ドラコはぶつぶつと心の中で文句を言い、その場の雰囲気に身を任せることにした。
実を言うと、ドラコはこのヒイロという青年が嫌いではなかった。
この隙の無い構えや目。
こういう整った人物は嫌いではないというか、寧ろだらしが無くて、隙ばかりの奴なんかよりよっぽど良いと思う。
唯、あまりこういう人物に接することが無いため、どうして良いか分からないだけだ。
「お前は、魔法とやらが使えるのか?」
この沈黙を破ったのは意外にもヒイロの方だった。
「あ・・・・はい。まぁそれなりに。」
「そうか」
ヒイロはそう言うだけで、考え込むように瞳を伏せた。
「ヒイロさんは、何か武術をやってるんですか?」
今度はドラコが思い切って質問してみることにした。
「ああ、そうだな。一通りは出来る。」
「では、ここに居る間、僕に稽古をつけてくれませんか?こちらの世界の能力と魔法が衝突するのは避けたほうが良いと聞いたものですから。」
ヒイロはこれまた意外にも二つ返事で了承してくれた。
案外優しい人なのかもしれない。と、ドラコは安堵したのだが、翌日からの稽古を考えると、それは甘い認識だったのかもしれない。
一方、リリーナとハーマイオニーの方では
「いえ、あの、だから、マルフォイとはそういう関係じゃ・・・・」
「皆さんそうおっしゃいますわ。恥かしがる必要はないんですよ、ハーマイオニーさん。」
ハーマイオニーは全く信じてくれない様子のリリーナを見て
「もう、良いです・・・。」
と溜息交じりに言うと、リリーナはにっこりと笑って
「そうですか」
と言った。
「そういえば、ヒイロさんとマルフォイ、大丈夫かしら・・・」
あの、全く口を聞かなさそうなヒイロとあのマルフォイ。
上手くやっているのだろうか。
終始無言の時間を過ごしているのかもしれない。
「そうですね・・・・ちょっと、わたくしも心配なんです。」
えっ?
ハーマイオニーはその言葉に驚いてリリーナを見た。
「ヒイロの社交性は皆無に等しいものですから。」
あぁ、成る程。
ハーマイオニーは会った時のヒイロの無愛想さを思い出して頷いた。
「まぁ、あの社交性のないヒイロには良い機会でしたので、利用させて頂きました。」
リリーナは悪びれも無く笑って言った。
「そうですか」
ただハーマイオニーは頷いた。
どうもこの女性はしっかりしていながらも、何処か変わっているらしい。と思いながら。
続
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