Lost Eden 3


ドラコとハーマイオニーは黙って前を歩く二人の後に続いた。
食事の間に行くまでに、幾人かの使用人に会ったが、その数は多くないことは明らかだった。
だが、どの使用人も、この二人に恭しく頭を下げ、その表情と態度からは、この二人をいかに主として尊敬しているかが伺えた。


「兄があなたたちに会ってみたいと言っていて、今日の夕食に同席することになっているのだけれど、大丈夫ですか?」


しぃん、と、使用人と二人(主にリリーナだが)が挨拶を交わす以外では沈黙が広がる中、リリーナが後ろを歩くハーマイオニーとドラコを案ずるように言った。




とっさに言われた言葉に反応できたのは勿論ハーマイオニーで


「はい、私たちは大丈夫です。気を使って頂いて有難う御座います」


にっこりと微笑みながら言うハーマイオニーに、リリーナは優しく微笑み返し、ヒイロはちらりと見ただけで、ドラコはハーマイオニーが応えた事で、自分の不甲斐なさを実感して、憤慨する。
そのドラコの微妙な変化にリリーナは気づくものの、もう広間の前に来ていて、取り繕う暇もなく、広間へと使用人によって招き入れられてしまった。



















中は、例えるならばバロック式というよりもロココ式?
ごてごてしい飾りは余り無いものの、一つ一つには細かい装飾が成され、やわらかい明かりに包まれていて、この城の主を示しているようだ。
決して華美過ぎはないが、その人の財力が上手く表されている。

そして、長いテーブルの端に、一人の金髪の青年が座っている。


「ようこそ」


青年は笑みを浮かべながら言うと、立ち上がってハーマイオニー達の下へと歩いてきた。
リリーナと同じく気品溢れる彼は、一目でこの城の主なのだろうと、確信出来た。
しかし、彼はリリーナのような柔らか、というイメージはなく、意志のあるというところ、金髪というところ、何処と無く気品があるというところが共通していた。


「こちらがハーマイオニー・グレンジャーで、あちらがドラコ・マルフォイですわ。」


リリーナがまずハーマイオニーとドラコを紹介した。


「私はミリアルド・ピースクラフトだ。」


ミリアルドはそう言ってドラコとハーマイオニー一人づつと握手を交わした。


「君たちも色々と聞きたいことがあるんだろうが、今は食事だな。席に着きたまえ」


そうして全員が席に着くと、料理が運ばれだした。
ハーマイオニーの前にはリリーナが、ドラコの前にはヒイロが、そしてミリアルドがハーマイオニーとリリーナの間に当たる上座に座っている。


「ここでは兄とわたくしが一応主ということになっています。」


この世界についてほとんどと言うより、全く知らない二人に向かって、一応、二人が今現在滞在しているこの城について説明する。


「あなた達は恋人同士なんですの?でしたら部屋は――」


とリリーナが言うのを聞いて、ドラコが怪訝な顔をして口を開くよりも速く、ハーマイオニーが口を開いた。


「違います!!」


大声をあげるハーマイオニーに、リリーナはくすくす笑い、ミリアルドは苦笑し、ヒイロは相変わらず無表情。
隣のドラコは、マナーが悪い とでも言うような視線を送る。

ハーマイオニーは恥ずかしくなって、頬を赤くして皿の上のものを口に入れた。


「こいつとはそんな関係なんかじゃありません。むしろ反対だ。」


ドラコは行儀良くナイフとフォークを扱いながら咳払いをして言った。
それを面白そうにリリーナは聞く。




「まぁ、君たちが何故ここに来てしまったのかは知らないが、これも何かの縁だな。暫く滞在するといい。何かあればリリーナ」


そう切って、リリーナを見た。


「はい、お兄様」


にっこりとリリーナは返す。


「わたくしに言って頂ければ出来る限りのことは致しますわ。」


そう言って隣のヒイロを見ながら続けて言った。


「ヒイロも。」


ヒイロはそれを聞いて、嫌そうに眉を顰めてリリーナを見た。
その目は明らかに拒絶を宿しているが、リリーナの「何か文句でも?」と言うような表情に軽く舌打ちすると、テーブルの上の食事に視線を戻した。

そもそもヒイロはリリーナとは違って警戒心が強い。(ミリアルドも強いと言えば強いのだが)
リリーナの言葉を信じない訳ではないのだろうが、身に染み付いた警戒する体勢というものが人一倍強い為に、まだドラコとハーマイオニーを信用しきれていないのだろう。


「・・・あぁ」

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間があって、ヒイロは承諾の返事をした。


「有難う」


リリーナは律儀に返す。


「それで、あの、ここの世界は・・・」


ハーマイオニーにしては、聞きたいことが定まらなくて、言い淀んでしまう。



「そうですわね・・・ここの世界には魔法を使う人はいませんわ。そして、魔法を使う、あなた達の世界への門は、今、閉じられてしまっていて・・・・」


申し訳なさそうにリリーナは説明する。


「そもそも、あなた達の世界では門は閉じられていますから、こちらを開けても、向こうの門が開いていなかったら元の世界に辿りつけるかどうかが良く分からないのです。」



「そうですか・・・」



ハーマイオニーは自分の手元に視線を落とした。



「わたくしが出来る限りで、このことは調べてみます。だからそれまではこの城でゆっくりしていて下さい。落ち着きましたら外の街を一緒に散策してみましょう?」



安心させるように微笑みをつくるリリーナが、何だか母親みたいで、ハーマイオニーはほっとさせた表情で微笑んだ。



「有難う御座います」







それからはゆっくりと談笑しながら食事を終え、ハーマイオニーとドラコは与えられた隣同士の部屋へと戻っていった。


「城の地図は、その、お渡しすることは出来ませんので、明日、主要な処は案内しますわ。」


そう言い終えて、ハーマイオニーとドラコの前から立ち去ろうとしたところ、何かを思い出したように二人の方を振り向いた。



「・・・あと、お風呂ですわね。ええーと・・・」


そう言い掛けて腕時計を見ると、午後7時前を指していた。


「一時間後に、ハーマイオニーさんはわたくしが、ドラコさんはヒイロが浴場まで御連れ致しますわ。」


それでは。と告げて今度こそリリーナはヒイロと共に去っていった。



ハーマイオニーとドラコは先程のほんの続きを読もうと、また、これからの事について話し合おうと、ドラコの部屋へと共に入っていった。



「・・・・・はぁ・・・・・」


疲れたように溜息をつくハーマイオニーに思わず大丈夫か。と労わる言葉が口をついて出てきそうだったが、自分らしくないと、言葉を変えた。


「貧弱なヤツだな」


「はいはい、穢れた血は何処かの純血の人みたいに強くはないわよ。」


疲れている為か、その言葉にはいささか何時ものような刺々しさは無い。


それにふん、と応えると、ドラコは本を開いた。



二人とも椅子に腰を下ろし、本を読み進めていく。









その世界の歴史であるが、どうやらその世界が出来たのは10億年程前らしい。
また、有史時代が始まったのは2000年程前のようだが、1200年前に大戦争が起こり、その殆どが失われてしまったようだ。

辛うじて戦火を逃れたものによると、2000年前、人々は目を覚ますように湖から幾人もの人々が出てきたとある。
それは老若男女、全てであり、・・・・・







「・・・・ってオイ、グレン・・・・」


と、ハーマイオニーをみると、こくりこくりと船を漕いでいる。


起こそうかと考えたが、まだ風呂への迎えが来るまで30分程あったため、ドラコはハーマイオニーを抱きかかえると、ベッドへと下ろして、自分は椅子へと腰掛けて、ふぅ・・・・と目頭を押さえた。




「僕も、少し疲れたな・・・・」


ぱたん、と本を閉じてテーブルに乱暴に置いて、ドラコも仮眠を取ろうかと、目を閉じた。

















コンコン


控えめなノックの音がして、ドラコはうっすらと瞳を開けた。


コンコン



二度目のノックで、ドラコははっきりと覚醒し、ドアへと欠伸をしながら歩いていった。



「はい」



ドアを開けるとリリーナとヒイロが立っていて、涙目混じりなドラコの様子に、リリーナは一瞬悪かったのか、と気にしたような表情を作るが、すぐに


「ハーマイオニーさんのの部屋にノックしても返事が無かったので、こちらにいらっしゃるのかと・・・。」


ドラコはそうだった。と、部屋に戻り


「おい、起きろ。」


と起こした。


それに勘違いしまくるリリーナ。


あら、やはり恋人同士なのね。
一緒にお眠りになっていたようですし・・・。

そうですわ、お二人がご入浴されてる間に部屋を一緒にしてしまいましょう。
きっとさっきはわたくし達に気を使ったんですのね。



リリーナはふふっと一人笑って、召使にハーマイオニーの部屋の荷物や、必要と思って用意したものをドラコの部屋に移すように言った。




そんなことも知らずに目を擦りながらハーマイオニーが出てきて、さっきのリリーナの言葉通りハーマイオニーはリリーナと、ドラコはヒイロと浴場へと向かった。
































続く















久々の全・書き下ろしです。
これから浴場に向かう途中のリリーナとハー子の様子とヒイロとドラコの様子を描写する予定ですが。。。

ううーむ・・・・
また更新遅くなりそうですね(苦笑)