何をしていると聞かれても、自分と対立関係にあるドラコに言う必要は皆無。
そもそも言ったとしても馬鹿にされて終わりだということは容易に想像できる。
「あなたに関係ないでしょ?その前に何であなたが此処にいるのよ」
心底嫌そうな顔をして当たり前の疑問を投げかける。
そう、自分はちゃんと誰もいないか確かめてから此処に来たはず。
しかもこの場所が自分に与えられていると知っているのは自分の身近な人と先生の一部の人のみ。
何故ドラコがここにいるかと思うのは当然のことである。
そんな、当然と言えば当然の質問をされてうろたえたのはドラコ。
最初は弱みを握れるかもと思ったため。
だが、今ここにいるのは好奇心。
というか、ハーマイオニーへの興味?
この僕が穢れた血に興味を持つ? そんな訳ない!
必死に頭に思い浮かんだことを振り払おうと頭を振る。
そんなこと、あってはならないのだから。
「・・・・まぁいいわ。とにかく私は調べもので忙しいの。邪魔しないでね」
ドラコの不可思議な行動を疑問に思うが、それよりもこの絵だ。
ハーマイオニーはそう言うと再び歴史書に視線を戻した。
「ふん、穢れた血が、偉そうに・・・・ん?」
悪態をつきながらも視線を泳がせるとハーマイオニーの傍らに絵が立てかけてあるのが見えた。
唯の絵だと思えばそうなのだろうが、何か変に惹かれるものがある。
「何だ、その絵は」
訝しげに絵に近寄って睨むように眺める。
「・・・・・ああ・・・・・それは・・・・」
ハーマイオニーは歴史書に夢中で返事はおざなり。
勿論それに苛立たないドラコではない。
ちゃんと答えろ、と言おうと口を開こうとしたとき、ハーマイオニーが声を挙げた。
「あったわ!!」
とうとうラインラントという地名を見つけ出したのだ。
ハーマイオニーは嬉しそうに歴史書から顔を上げてドラコを見た。
そんなハーマイオニーに、びくっとドラコは肩を震わす。
「な、何なんだ一体・・・」
唖然とするドラコと対象的に、ハーマイオニーは自分の夢が実在していたことを知って興奮を隠せない。
「やっぱり実在したんだわ!!」
嬉しそうに傍にあった絵を持ち上げる。
と、その瞬間、絵の中の少女が涙を流した。
同時に絵から光が溢れる。
「え?」
その光は一瞬にしてハーマイオニーとドラコを包み込んで、二人を絵の中に引き込んでしまった。
光がやっと収まってきて、二人の目に飛び込んできたのは、城の内部を思わせる石の壁や床。
所々に窓があって、淡く赤い光が差し込んでいるため、今夕方だということが伺える。
「おい、グレンジャー、これはどいうことだ!?」
全く把握できない今の状況にドラコは混乱してハーマイオニーに縋るように言う。
「私が分かるはずないでしょ!?私なんかより純血のあなたの方がこういうことには詳しいんじゃないの?」
ふん、と小ばかにしたように言うハーマイオニーにドラコは頭に血が上るのを感じた。
「なん――」
ハーマイオニーを思い切り怒鳴りつけようとしたとき、何者かが鋭い声を発した。
「誰だ!!」
自分たちの前に立ちはだかる少年が剣の柄に手をかけ、いつでも斬りかかれるようにしているのを見て、ドラコとハーマイオニーは凍りついた。
その中でもドラコは口をぱくぱくさせて、ハーマイオニーを見た。
ハーマイオニーは顔を真っ青にしながらも、全く頼りになりそうにないドラコを見て、きゅっと口をむすぶとはっきりとした声で言葉を選びながら話しかけた。
「あの、誤解しないで、私たちは、この城に忍び込んだわけじゃないの」
ぴく、と眉を上げて少年は続きを促した。
ふぅ、と、気持ちを落ち着ける為に息を吐き出すと、ハーマイオニーは口を開いた。
傍らから「何とかしろよ、グレンジャー」と、消え入りそうな声が聞こえてくる。
「私たち、学校にいたんです。そしたら、絵に吸い込まれて、気がついたらここに・・・」
「・・・・」
吟味するように少年はハーマイオニーの言葉を黙って聞いていた。
まだ動かない状態を感じて、ハーマイオニーは夢で見た「ラインラント」という単語を出そうかどうか迷っていた。
ここが本当にあの夢の世界なのか。確かめるにはキイワードとなる「ラインラント」が存在するかどうか調べるのが手っ取り早い。
しかし、あの夢の話からして、どうやらラインラントは敵国かどこかなのだろう。
あのときの少年の顔の厳しさは尋常じゃなかった。
ぎゅっと唇を噛み締めて少年の出方を待つ。
すると、少年の後ろから人の走ってくる音がした。
「何をしているの、ヒイロ!」
少年はその声に舌打ちを打つと、剣を引き抜き、ドラコとハーマイオニーに向けつつ、隣に走ってきた少女に目を向けた。
少女は絵の少女そのままで、ハーマイオニーとドラコは顔を見合わせた。
「おい、あの女はあの絵の女じゃないか」
ひそひそとドラコがハーマイオニーに話しかけると、分かってるわよ、と返事が返ってきた。
「剣を下げて、ヒイロ。この人たちは敵ではないわ」
ヒイロと呼ばれた少年は不服そうにドラコとハーマイオニーを睨み付けると、大人しく剣を鞘に戻した。
だが、いつでも剣を引き抜けるようにしているのは目に見えて分かって、未だドラコtハーマイオニーは緊張した面持ちで駆け寄ってきた少女を見る。
「あなたがドラコであなたがハーマイオニー、だったかしら?」
私はリリーナ・ピースクラフトです。と、続けて
にっこりと微笑みながら言うリリーナに、二人は呆気に取られる。
たった今初めて会ったばかりの人間に自分の名前を呼ばれれば誰しもが驚くに決まっている。
しかも今は自分たちがいる世界とは違う世界に居て唯でさえ気が動転しているのだ。
その驚きはいつも以上のもので二人を緊張から混乱状態に落とすには十分なものだった。
「あの、落ち着いてください」
混乱してる二人を宥めようと優しく声をかける。
「ごめんなさい、急に剣を向けられれば誰だって驚きますわよね・・・・」
ちらっとヒイロに目配せしながら言う。
「わたくし達はあなた方に危害を加えるつもりはありません。」
きっぱりとリリーナは言った。
そして、突然のことに気が動転しているでしょう。と、二人を落ち着けさせる為に二人を客室と思われる部屋へと案内し、しばらくゆっくりして落ち着くようにと、二人だけにすることにした。
それから夕食時に迎えに来ると言ってヒイロと共に去っていった。
しぃん・・・と沈黙が流れた。
何が何だか訳が分からなくて、ドラコは歩き回ったり外を見たり。
そしてハーマイオニーは、はっと自分の腕の中にあの歴史書があるのに気がついた。
ずっと抱きしめていて、そして気が動転していて、すっかり存在を忘れていたが、こっちの世界に持ってきたらしい。
それをぱらぱらとめくって見た。
「ねぇ、見て、マルフォイ」
急に話しかけられたことに驚きながらも、ドラコはハーマイオニーの言うとおりに歴史書を覗き込んだ。
ぱらぱらとめくっていくと、文字がびっしりと、所々に絵があるのに、30ページくらいから真っ白。
ドラコは怪訝そうにハーマイオニーを見た。
「分からない?ここには続きが確かに書いてあったのよ。」
それを聞いてドラコは黙ってまた歴史書に目を落とした。
「多分、この時代よりも前のことは書いてあっても、これから起こる、先の時代のことは書かれてないんだわ・・・」
「・・・じゃぁ僕達が時間を、歴史を変えてしまう可能性があるってことじゃないか!!」
ハーマイオニーは黙って頷いた。
ドラコは狼狽してハーマイオニーと歴史書を見る。
歴史を変えるのは禁忌。ということはドラコも承知しているらしい。
「慎重に行動しなければ・・・・」
ハーマイオニーは自分に言い聞かせるように呟くと、まず、この時代の状況のヒントを得ようと、歴史書を読み始めた。
大昔。この世界には裏の世界が存在した。
昔はまれに行き来することが出来たが、現在はその世界が存在するか、しないかも分からない。
その世界では、魔法と呼ばれるものを使う人はおらず、その代わりに、特殊な能力を持つ人間が稀に存在した。
その能力と我々の魔法は根本的に違うため、特殊能力(あちらの世界の特殊な能力を以後、こう呼ぶことにする)と魔法の力が衝突した場合、どのようなことが起こるか分からないことが判明した。
故に我々は、あちらの世界とこちらの世界を繋ぐ門を封じることにした。
その昔、この世界では、紛争が絶えない時代があった。
それは主に特殊能力を持つ人々が中心になっていて、派閥ができたり、国がその人々を中心に形成されたがために生じたものだった。
我々はその争いについては力を貸さないという条件で、交易をしていた。
あちらで採れる... ...............
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「ああ、読めないわ。保存状態が悪いみたい・・・・」
淡々と読んでいたハーマイオニーは残念そうに言った。
「くそ、鉱物が何なんだ・・・?まぁいい、とにかく続きを・・・・」
と、二人が飛ばして続きを読もうとしたとき、控えめにドアがノックされて、二人は飛び上がった。
「ハーマイオニーさん、ドラコさん、夕食の準備が整いましたわ」
どうやら、もう夕食時らしい。
二人は顔を見合わせて胸をなでおろすと、のろのろと椅子から立ち上がって、ドアノブに手をかけた。
続く
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