好き。と、愛してる。の違い
フウは憂鬱な気分で仕事をこなしていた。
さっきまでいたハルは布団を干しに行き、フウはおつかいを頼まれて外に出ていた。
『帰りに甘味所で一服してくると良いよ』
とハルに言われたが、気が引けてしまう。
とにかく、まず、店に行き、頼まれたものを引き取る。
「ええっと、これとこれだったね。ハイ、お釣り。」
「ありがと」
店の者から品物とお釣りを貰い、店を出る。
「毎度あり〜」
店の者がそう言うのが後ろから聞こえて、軽く手を振った。
さて、帰るか。
と、店の前から宿への道を踏み出したとき、声をかけられた。
「おい」
見るとジンがいて、フウは引きつりそうになる顔を抑えた。
しかし、顔を抑えるのに気を取られて、言葉を発するのが遅れ、こほん、と咳払いをしてジンの方へ向き直った。
「何してんの?」
顔を引き締めてそう尋ねると、ジンは無言でフウの手荷物を取った。
「・・・・・持つ。」
不思議そうに見上げるとそんな答えが返ってきた。
そして
「茶でも、飲みに行くか」
などと。
ジンにしては珍しい言葉を吐いた。
「どうしたの、急に」
疑問に思うのは仕方の無いこと。
しかもこの男はムゲンと違ってポーカーフェイスが上手いものだから益々その意は汲み取りがたい。
「いや、たまにはいいだろう」
はぐらかすような答え。
だが、フウには分かっている。
ああ、自分が悪い。
自分が、様子が変だから、気を使わせちゃったのかな・・・。
少し気持ちが沈むが、まぁ、ハルにも一服して来いと言われたことだし、フウはジンと甘味処へ行くことにした。
入ると、人がまばらにいて、自分と同じくらいの少女と、これまたジンと同じくらいの青年がいるのが目に付いた。
空いてる席がその両隣だったため、そこに腰を下ろす。
隣の少女が白玉あんみつを美味しそうに頬張るのを見て、美味しそうだな、と思った。
「いらっしゃいませ。」
店の店員が来て、お茶を二つ持ってきた。
その目は『ご注文は?』と言っているようで、フウはぱらぱらと御品書きをめくって店員を見上げた。
すると、その意図を汲み取って、店員は伝票をポケットから取り出した。
書く(メニューを取る)準備は万端だ。
「白玉あんみつを一つ。ジンはどうする?」
「・・・・・あわび餅を。」
ジンはフウから御品書きを受け取って、簡単に目を通して言った。
店員は頭を下げ、去って行き、二人の間に沈黙が流れる。
「兄様は召し上がらないのですか?美味しいですよ。此処のあんみつ」
「・・・・・いや、私は良い。」
「・・・・・と言うか、恋次を探しに行かなくて良いんですか?」
「・・・・・良い。放って置け。」
隣の会話が耳に入ってくる。
何か話さねば。
「ジンが此処に居るのって何か違和感あるね」
「そうか?」
それにフウは頷いた。
隣の席にいる青年もそうだが、この物静かな外見、しかも男が甘味処の中に座しているのは珍しい。
ちろり、と隣を盗み見する。
青年は頭に奇妙な髪飾りをしていて、二人とも黒い着物に身を包んでいる。
否、青年はその上に白い羽織を羽織っている。
何処か、この空間に存在することに違和感が感じられた。
「お待たせいたしました。」
その思案を打ち切るように店員があんみつとわらび餅を持ってきた。
「うわ〜美味しそ〜〜。いただきまーす」
嬉しそうにフウは言った。
やはりこういうものは嫌なことを忘れさせる。
嬉しそうにしているフウを見て、ジンはほっと息を吐き出し、自分も黄粉と黒蜜が掛かっているわらび餅に手をつけた。
「やっぱりあんみつは白玉よね。このもちもちした食感が美味し〜」
「お主、中々分かる奴だな!やはり白玉は和菓子の中の和菓子だよな!そうは思わぬか」
何気なく発した言葉に、隣の少女が話に飛びついてきた。
「う・・・うん。そうね」
フウはびっくりしながらそう言った。
少女は目をキラキラさせていたが、青年からの視線によって、はっと、「マズイ」という顔をした。
「す・・・すまなかった・・・。」
少女はそう言って、席へと戻り、白玉あんみつを再び口にした。
ちらり、と、青年を伺い見ながら。
すると
「・・・・・・」
青年は、無言のまま少女の口許についた餡蜜を指で拭うと、己の口許へと運んだ。
「やはり、甘いな。」
しれっとやってのける青年とは反対に、少女の顔は赤く染まり・・・・
不覚にも見ていた私の顔も赤くなってしまった。
「おい」
声をかけられて、ジンの方を向いた。
「へっ?」
腕が、手が、フウの口許へと伸びる。
気づいたときには、口許に冷たい、無骨な手が触れていた。
その手はフウの口許の餡蜜を先程の青年と同じように拭うと、己の口許へと運ぶ。
「・・・・甘い。」
他意は無い。
とでも言うような顔を、それに反する事をしておいて。
「・・・・っそりゃぁ、あ、当たり前じゃない」
動揺してフウの声が上ずった。
ばくばく言っている心臓を押さえるように深呼吸をすると、幾分熱を持った頭が冷静さを取り戻したように感じる。
「ってか、あんた急に何すんのよ。」
犬じゃあるまいし。
という言葉は言わないでおいた。
何と言っても隣に、同じ事をした人が居るのだから。
「・・・そろそろ、出ましょう。仕事をせねば・・・。」
少女は急ぐように言って立ち上がった。
青年は「うむ。」とだけ、頷くと勘定の紙を手にとって立ち上がる。
「ああっ兄上、勘定は私が!」
「良い」
「ですが・・・・」
兄妹のやりとりが聞こえてくる。
「・・・・あたし達も行こうか。」
あたし達も。とは奇妙な物言いだ。
何せ彼らは関係ないのだから。
でも、「あたし達も」と言ってしまったのは、やはり一連の出来事があったからか、はたまた、少女も己も同じような青年を相手にしているからか。
そんなことを考えながらフウはジンと共に甘味処を出た。
「有難う御座います」
勘定を済ませ、出口へと向かう。
「ジンはこれからどうする?あたしは戻るけど」
フウはジンの持つ、自分の荷物を見ながら言った。
「私も戻る」
ジンはそう答えた。
「そ。じゃぁ帰ろ。」
フウは出来るだけ陽気に言って帰路を歩みだした。
「ジンってさー、やっぱり変な奴だね」
今、沈黙を生み出したくないフウは何か話そうと口を開くと共に、何故か言葉か独りでに流れ出す。
普通に話せている自分に幾分ほっとした。
「失敬な。あれよりマシだ。」
ジンは眉を寄せて言う。
あれとはムゲンのことだろう。
「あ〜・・・・うん。まぁ。でも二人とも同じくらい変よ。・・・ってアレ、ムゲンじゃない?」
噂をすれば何とやら。
向こうからムゲンが団子を手に歩いてきた。
「あぁ?何してんだ、お前ら」
「ムゲン、それ、美味しそうね」
フウがムゲンの手にある団子を見落とすはずがない。
すかさずフウは瞳を輝かせながらムゲンの団子をロックオン。
「やらねーぞ!って、あッゴラァ!!」
その言葉空しく、2本あった団子は全てフウに奪い取られてしまった。
もちろん、本気で団子を死守しようとすれば出来たものの、フウ相手に本気になれるはずも無く。
惚れた弱みってヤツか?
などと柄にも無く片手で、照れる顔を覆う。
「いっただっきまーっす♪」
フウは元気良くそう言うと団子を頬張った。
「全く、先程食べたばかりだというのに、良く食べる女だ。」
静かにジンは言った。
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「ふぁっへ、ほひひひょー・・・・・むぐむぐ・・・・・・なんだもん!」
「お前、日本語喋れ、日本語。」
「同感だ。」
「だから、美味しそうなんだもん、仕方ないでしょ!?」
フウはそう言うと、二本目の団子に取り掛かった。
「食い意地張りすぎだろ・・・」
ムゲンは吸収されていく団子を尻目にがくりと肩を落とした。
「むぐむぐむぐ・・・・ごく・・・・五月蝿いわね〜。ほら、帰るわよ!」
フウはそう言ってさっさと歩き出した。
何処からどう見てもいつもの3人でいることにフウはほっと胸を撫で下ろした。
好きとか嫌いとか愛だとか。
きっと私達3人には関係ないんだと思う。
きっと、好きも嫌いも愛もあって、混ざっちゃってて区別出来ないんじゃないかなって思う。
とにかくもうちょっと3人でいれれば良いなぁって。
フウは自分の足元を見て一人でくすりと笑った。
しかし、後ろの2人を振り返って笑みは掻き消える。
もし、どっちか選べって言われたら、私はどうするんだろうって。
思ったから。
『じゃぁ愛してるの?』
何て何て重い言葉。
涙が出そうだ。
続く
日記とは違う話になります。
ブリーチの住民はこれ以上出さないつもりです。
ブリーチ知らない人は困っちゃうもんね。
もし気が向いたら日記版は別にupしようかなーなんて。
とりあえずGWに小説up出来て良かった〜
2006.5.7