夕食の間、ムゲンはじーっとジンを睨みつけていた。 その視線を受けつつももくもくと食事を取るジン。 無論、その視線には気づいている。 そして、その意味も。 十中八九、私の動向が気になるのだろう。 そんなに気になるのなら、さっさとフウに気持ちを伝えれば良いものを・・・。 まぁ、そうなっては困るのだが。 ジンは箸を動かしながら思案する。 そうこうしているうちに、夕食の時間は終わった。 途端 「ジン、ちょっと付き合え」 と、ムゲンが真剣な顔で、ジンを射殺しそうな視線でもってジンに言ってきた。 それに臆することなく答える。 「・・・・・あぁ」 連れ立って出て行く二人を不思議そうに見て、フウは様子を見に行こうかとしたが、ムゲンにクギを指されて部屋に大人しく戻って行った。 「あのよ、聞きてぇことがあんだが・・・」 ムゲンが、ジンと二人、外に出て暫くしてから切り出した。 が、言いにくそうに頭を掻く。 「私に何が聞きたい。」 ジンは、答えが分かっていつつも尋ねる。 「・・・・・あー・・・」 尚も言いずらそうに、言い渋るムゲンに、ジンは静かに告げた。 「私がフウをどう思っているかが気になるのか。」 ムゲンは、はっとしてジンを睨みつける。 「分かってんだったら話が早ぇ。答えろ。」 「・・・さぁ、どうだろうな。」 はぐらかすジンに、気が短いムゲンは剣を引き抜いた。 「悪ィが俺は気が短いんだ。」 「ふん、急いてばかりでは大切なものを見落とすぞ、ムゲン。」 刀を引き抜きながらジンが言うと、 「うるせェ!もう彼是考えるのはやめだ!俺ァ俺の思うとおりにやるだけだ!!」 と、切っ先をジンに向けて走り出した。 ジンはそれを迎え撃とうと構える。 ヒュン、とムゲンの剣が風を凪ぐ音がし、それを流してジンは切り込む。 が、ムゲン自分の斬撃が流されたと同時に、飛び退き、ジンの斬り返しを避ける。 それに間髪入れず更に追撃するジンの刀をムゲンは剣で受け止めた。 周りには夕方にの家路の途中の人やら近所の人やらで人だかりが出来ていた。 刀を剣で受け止めたままの状態から先に動いたのはムゲンだった。 ムゲンは受け止めていた剣で、刀を頭上に流すと、下から足蹴りを食らわせた。 その衝撃に数歩後ろにジンが後ずさると、しめたとばかりにムゲンが、上に流した剣を構えてジンへと斬りかかった。 それを体を逸らして避けると、ジンは体勢を整えてムゲンの次の斬撃に備えた。 辺りに高らかに剣と刀がぶつかり合う音が響く。 すると、話を聞きつけた役人が人垣を掻き分けて来た。 「こら、お前ら!こんな所で何をやっている!!」 「あァ?うるせェな・・・」 ムゲンとジンはその仲裁人(?)の出現に、お互い後ろに下がって間合いを取る。 「よせ、ムゲン。面倒なことは御免だ。」 その言葉に忌々しそうに舌打ちをすると、ムゲンとジンは刀を納めた。 「全く、、、ほら、調書取るから奉行所に来い。」 それにムゲンは耐えられずに食って掛かる。 「ちゃんと止めたんだからいいじゃねェか!」 「・・・・・・しょっぴけ」 役人の言葉と共に周りから役人が現れて、ジンとムゲン、特にムゲンを縄で縛り上げた。 in奉行所 「お前らよ、あーゆーとこで斬りあっちゃいけませんってお袋さんに習わなかったのかぁ?」 中年の役人が正座させられている二人に言う。 「知るか」 「知らんな」 「・・・・とにかくよ、今お前らの妹さんが来てるからよ。」 二人はその言葉に顔を見合わせる。 「「妹?」」 「そうそう・・・あ、ホラ」 という言葉と同時にフウが入ってきた。 「お兄ちゃん!すみませーん、この二人、仲が良すぎてよく喧嘩しちゃって。」 ぺこぺこと頭を下げながら言うフウをジンとムゲンはじぃーっと見つめる。 「あっ、こら、あんたらも謝りなさいよね!」 フウはジンとムゲンのところにいくと、二人の頭を思いっきり下に抑えて、一緒に頭を下げる。 「ぐっ」 「いてェッ」 口々に抗議の声を挙げるがそれに構うことなく頭を下げさせ、「ああ、もう帰っていいよ」という役人の言葉を聞くと、さっさと二人を連れて宿へと帰っていった。 「全くさぁ、まだまだ旅は長いんだがら、もうちょっと仲良くしてよね」 「「・・・・・」」 フウを間に挟んで歩くムゲンとジンはそっぽを向きながら歩く。 まだまだ旅は長い。か・・・・・。 ぼんやりとムゲンはフウの言った言葉を反芻する。 「・・・・・・・・・・そうだな。」 ぽつりといきなり呟いたムゲンをフウとジンは訝しげに見る。 「まだまだ旅は長ェんだしな。」 焦る必要なんてねェな。 すっきりした顔で空を見ながら続けて呟くムゲンにフウは「は?」と言うが、全く気づかない。 「・・・ちょっと、コイツどーしちゃったのよ」 こそこそとジンに聞くが、ジンは相変わらずの無表情で、だが、何処と無くほっとしたような表情をして歩いている。 「全く何なのよ。今日は二人ともおかしいわよ?」 一人納得のいかないフウは憮然として呟いて空を仰いだ。 いつの間にか空は真っ暗で、月と星が輝いている。 深く息を吸い込むと夜の匂いが体に入ってきて、すっきりする気がして、フウは「ま、いっか」と呟くと宿へと足を速めた。 fin |