空に一点の曇りも無い、天気の良い昼下がり。 ムゲンはひまわり侍探しも手伝わずに、普段使わない脳を総動員して昨日の出来事について考えていた。 普段だったら室内におとなしくいるタイプじゃないムゲンが、縁側に座ったり、畳に横になったり、ずっと物思いに耽って一向に宿から出る気配の無いムゲン。 フウとジンはそんなムゲンを多少疑問に思ったが、二人は関わろうとせず(特にフウは昨日が昨日だったため)外に出て買い物したり例の侍を探したり。 俺ァ、なーんでこんなに考えてんだ? いやいや、でもアイツの昨日の様子といい、気になるしよ・・。 てか、何でアイツ昨日泣いたんだよ!? しかも「反対」って何だ、「反対」って。 何の反対なんだってーんだよ! ああッ分からねぇ・・・・ 女って奴は分からねぇ・・・・!! がばっと、ムゲンは一人頭を抱えた。 「うがァあーッ!!」 ムゲンは両手で頭をがしがしむしると、立ち上がった。 「大体よぉ、俺に『考える』ってーのは無理だ!!」 そしてどしどし部屋の出口に近づいて、力任せに襖を開けて宿を後にした。 「悩むくらいだったら聞く!あいつに聞けばいーんだよ。」 自分を落ち着けるために口任せに色々考えてることを声に出す。 「てか、俺は何でこんなにあいつのこと気にかけてんだ・・? 意味分かんねぇ・・・・。」 何でこんなに時間を費やしてフウのことであれこれ考えて一人で百面相しているのか。 冷静になって考えようとする。 そして思いつく理由を挙げてみた。 「いや、何か、ほっとけねぇし?」 「こんだけ一緒に旅してっから情が移ったんだろ?」 何処か自分に言い聞かせるような響き。 しかし、どれもしっくり来ない。 ふと、思い浮かんだのは 「はァ!?いやいや、あり得ねぇって」 思い浮かんだのを振り切ろうと頭を振るが そうだと認めればすんなり納得出来る。 今までの自分の行動が。 「俺、あいつのこと・・・・」 いつの間にか立ち止まっていた。 そして、その場で唖然と呟く。 「マジかよ・・・・」 ムゲンは思い立った考えに頭がショートするのを感じた。 「俺が・・・アイツを・・・?」 俺があんな、我が侭で俺らをいつも振り回す女を隙な筈がねぇッ!! ムゲンは足元の石を意味も無く蹴飛ばした。 「とにかく、まずフウに聞く!!それが先だ!」 ムゲンは考え出すときりがない。と、フウにとりあえず昨日のことを聞くことにした。 「しっかしアイツ何処いんだァ?」 考えの切り替えが早いのか、ただ単に思い立ったら前のことを忘れてしまうのか、どっちなのかは定かではないが、今、ムゲンの頭には自分がフウを好きかどうかなんて考えなどは無く、『とにかくフウに聞く』があるのみ。 「そーいやァ眼鏡一号とどっか行くっつってたな・・・」 眉間に皺を寄せながら呟く。 「ジンの奴・・・・」 ジンの存在が此処になって初めて出てきて、 その動向が気になるムゲンはまたまた貧弱な脳を働かせ始めた。 「と、とにかく、俺があの女を好きだとして、だ。ジンの奴はどー思ってんだ?」 よくよく考えてみれば、結構ジンはフウの買い物にいちいち付き合ったり、色々と気にかけているような気がしてならない。 「・・・・ってことは・・・ジンはやっぱ敵ってぇ事か」 ふむふむ、と一人頷いて納得。 「敵=斬る!!」 ムゲンは自身のその見事な単細胞っぷりおを余すとこなく発揮して、今度はフウではなくて、ジンを探しに奔走し始めた。 まぁ結局はジンとフウは一緒に買い物している訳なのだから、一緒にいることは間違いないのだが、この男の頭にその考えがあるとは到底考えられない。 「オイ!ジン!!」 走っていると前方に両手に袋を引っさげげて、ぼーっと空を仰いでいるジンを見つけ、大声で叫ぶ。 そして右手で背負っている剣を勢い良く引き抜いて斬りかかる用意をし――――― これには驚いたジンは袋を下に落とすと、腰の刀を引き抜いて、ムゲンの斬撃を受け止めた。 「きゃァッ」 「うわっ」 突然おっぱじめられた戦いに周りの人々が口々に悲鳴をあげ、ムゲンとジンから遠ざかってその行く末を見守る、野次馬と化した。 無論、誰も止めようとする人物はいない。 彼女を除いて。 「ちょっと何やってんのよ!!喧嘩は駄目って言ったでしょ!?」 どうやらジンは買い物をするフウを待っていたらしい。 フウは買い物袋を両手に持ってずかずか人が取り巻く二人の元へと歩いていった。 「・・・・ムゲンが初めに斬りかかってきたのだから仕方が無いだろう」 刀を鞘に収めながらジンは憮然として言った。 その言葉にムゲンをきつく睨む。 「全く、何で急にそうなるのよ」 咎めるような物言いにムゲンはバツが悪そうにそっぽを向いて大人しく剣を鞘に戻した。 「・・・・い、」 「い?」 心なしか顔を赤らめながら言う、ムゲンの言葉をフウは鸚鵡返しする。 「言える訳ねぇだろッ!!」 ムゲンは顔を真っ赤にしてそう怒鳴ると、宿へと大股でどすどすと戻りだした。 「はぁ?訳分かんないわよ、全く」 腕を組んで眉を寄せて呟くフウの隣で、ジンは一人何も言わずに隣に立つフウを見下ろした。 じぃーっと見てくるジンの視線に気づいて、フウは、疑問符を浮かべてジンを見上げた。 「どしたの、怖い顔して」 傍目から見れば変化のないように思えるが、明らかにフウにとっては、ジンは顔をしかめている。 「・・・・・いや。・・・正直焦っているらしい。」 「はぁ?」 全く意味を解せないフウは声を挙げて疑問を表した。 「気にするな、こっちの話だ。」 ジンはぽんぽんとフウの頭を撫でるように軽く叩いて、ゆっくりと宿に向かって歩き出した。 「さっきから変な二人ねぇ・・・・」 撫でられた頭を自分の手でさすると、フウはジンの横に小走りでかけよると、一緒に宿へと歩き出した。 あんな、いかにも独占欲の強そうな男。 自覚してしまえば、面倒なことになるかもしれん・・・。 ジンは、顎に手をあてて、そんなことを考えていた。 そう、見るからに欲の強そうなムゲンのこと。 フウへの気持ちに気づいてしまえば、今のようにフウがジンに接することを許すことがあるだろうか。 甚だ疑問だ。 まぁ、そんなことがあっても、フウは自分のやりたいように行動するだろうから、今以上に喧嘩が増えるだけなのだろうが、3人での旅がしにくくなるのは明らかで。 未だこの、フウとの旅を望んでいるジンとしては、そのような自体が面白くない。 切れる頭も、このようなことには鈍くなる。 「はぁ・・・どうしたものか・・・・」 溜息を溢すばかり。 暫く宿への道を歩いていると、ムゲンが宿を出たり入ったりしているのが見えた。 「何してんのよ、あいつ」 不可解そうにフウは呟くが、ジンには分かる。 おそらく、自分とフウとを、二人きりにしてしまったことで気を揉んでいたのだろう。 「さぁ、私には分からんな。」 さらりと言うものの、ムゲンがこれからどう出てくるかが気になって仕方ない。 とりあえず、ムゲンと二人で話しをする必要がありそうだ。 最も、ムゲンと『話』は難しそうだが。 ジンはそれも興。と、わずかに口の端を上げた。 続く? 続 |