ムゲンは大人気ない。 ムゲンは喧嘩っ早い。 ムゲンは短気。 ムゲンは乱暴。 ジンは大人。 ジンはちゃんと考えて行動する。 ジンは気が長い。 ジンは優しい。 どう考えてもジンの方が「良い人」なのに。 何でいつも思い浮かぶのはムゲンなんだろ・・・・ ぼんやりと物思いに耽りながら空を見上げた。 今夜は月が見えない。 真っ暗な空がただ広がるのみ。 フウは縁側で足をぶらつかせながら空を仰いでいる。 「お前何やってんだ、こんな時間に。」 厠にでも行っていたのだろうか、眠そうに目をこすりながらムゲンがやってきた。 「なーんでも無いわよ」 ちらりとムゲンを見て、また空を仰ぐ。 ぼりぼりと頭を掻いて、ムゲンもつられるように空を仰ぐ。 しかし見上げる先には星ひとつない空があるだけ。 「なんもねぇじゃねーか」 変な奴。 そう呟いて、フウの隣に腰を下ろした。 フウは正にムゲンのことをぼんやりとはいえ、考えていたため、ムゲンが隣に来て焦る。 しばらく無言のままムゲンと共にいたのだが、とうとういてもたってもいられなくて、いきなり立ち上がった。 いきなり立ち上がったフウを訝しげにムゲンは見上げる。 「あ、私、戻るね!」 ムゲンの顔を見ずに、否、見ようとせずに去ろうとするフウの腕を、ムゲンは咄嗟に掴んだ。 「お前、最近変じゃねぇか?」 唐突発せられた、それでいて核心をついている言葉。 さっとフウの頬に朱が走る。 が、暗闇の中では気づかれない。 そのことにとりあえずほっとして、今度は自分の手を掴むムゲンの手に意識が集中してしまった。 手が、ムゲンの触れている部分が熱く感じる。 「変?わたしが?」 動揺を気づかせまいと声を抑えて言う。 「あぁ、何だかよぉ、上手く言えねぇんだが・・・・」 本当に言葉が見つからないのか、言葉を濁したまま言葉が途切れる。 その沈黙が耐えられなくて、このムゲンに手を掴まれてる状態が耐えられなくて、 「・・・・・どうもしないわよ、別に。」 と言って顔を背けた。 「ほら、そうやってこっち見ねぇじゃねーか」 憮然と言い放つその態度はいささか怒っているように感じられる。 フウはその言葉と口調に困惑した表情でムゲンを見る。 ムゲンはフウの視線を受けながら立ち上がった。 「お前よぉ、俺のこと嫌い・・」 嫌いなのか? そう聞こうとして、ムゲンは言葉を失った。 何故なら、フウが目を見開いて涙を溢していたから。 「お、おい」 ムゲンはそれを見て慌てふためく。 「腹でも痛ぇのか!?あ、頭か!!それとも足!?」 頭を乱暴に掻き毟りながら、視線を泳がせながら尋ねる。 が、フウは慌てて下を向いて首を横に振るだけ。 「・・・・それとも、泣くほど俺が」 「違うわよ!」 これだけは誤解されたくなくて、フウは必死に叫んだ。 と同時に何処からともなく怒りが込み上げてくる。 「アンタって本当に鈍感よね!嫌いだったら一緒に旅してるはずないでしょ!?」 涙を目に湛えながら怒って言うフウに呆気に取られてしまう。 訳が分からずに何か言おうと口を開いて出たことばは 「・・・・あ?」 何とも情けない。 「あ? じゃ無いわよ!!あのねぇ、全然反対なの!!」 「反対って・・・何だそりゃ」 嫌い、の反対のつもりで言ったものの、全く解せないのがムゲン。 フウは、もうやってられないとでも言うような表情をしてみせると、呆気に取られて力の抜けているムゲンの手を振り払って、自分の部屋へと大股で戻っていった。 「・・・まぁとにかく嫌いじゃねぇって事か?」 てか、むしろ好きだと言ったんだが・・・・ ムゲンは振り払われた手を眺めながら呟いた。 とにかくムゲンは「嫌いじゃない」という事実に満足したようで。 「・・・便所行くか。」 と。去っていった。 まだまだこの男が恋心に目覚めるのは遠い話のようである。 だが、確実にその芽は出始めている。 fin |