意地の張り合い



「あんたなんかだーい嫌いよ!」


フウは思い切り叫ぶと踵を返して走り出した。


「おい、行ってしまうぞ。いいのか?」


ジンが話しかけても、ムゲンはそっぽを向いて口を一文字にするのみ。
そんなムゲンにジンは「仕方ないな」と肩を上げて、フウを追った。


一人になったムゲンはむしゃくしゃしながら、通りかかったヤ●ザと思わしき人物に八つ当たり。
相手としては願っても無い!と最初は思ったのだろうが・・・・
今はかろうじて生ける屍として路上に転がっている。
ムゲンはそいつらの懐から金目のものを失敬すると、大股に歩き出した。


「何だァ?あいつはよぉ。俺が何したってんだ!」


自分を怒鳴りつけた少女を思い出して悪態をつく。


「くそっ!」


かと言って酒を飲む気にもなれず、女楼に行く気にもなれず。
ただ歩き続ける。


「まァあいつがついてるから大丈夫だろうが・・・」


まぁ、何というか、心配しているらしい。
自分の頭をぐしゃぐしゃに掻きながら立ち止まったり、歩いたり。
明らかに様子がおかしい。



ってゆーか、ジンと一緒だからこそ余計、ある意味危ないんだよ!?
分かってるんですか!?!?
まぁ、ジンは誰かさんと違って理性的な人間だから心配ないだろうけれど・・・・(by管理人)
























「いいのか?」


ジンはというと、団子をおいしそうに頬張るフウの横にいた。


「ふぁふぃが?」


何が?
口いっぱいの団子に邪魔されて上手く発音できない。


「・・・口に物を入れたまましゃべるな」


茶をすすりながら嗜める。


ごくん


そのジンの言葉に忠実に団子を飲み込むと、再び「何が?」と尋ねた。


「分かっているのだろう?」


そう言われてフウは顔をしかめて、団子を頬張った。


「・・・・・まぁ、俺は一向に構わんのだが」


むしろ、好都合だ。


心の中でそう続けるが決して声には出さない。
この二人が好き合っているのは、これだけ一緒に行動してれば分かる。
が、如何せん不器用すぎる二人。
自分が付け入る隙はいくらでもある。
今もその「隙」。


全く、馬鹿な奴だ。


そんな男と一緒にさせておくムゲンの気が知れない。

が、内心ほくそ笑む。
敵に塩を送る。とはこの事。
しばらくこの、ムゲンに与えられた二人で過ごすまたとない機会を思う存分味わうことにしよう。とジンは静かに思った。


















「さ、そろそろ今夜の宿を探さなくちゃ」


満足したのか、フウはお勘定を済ませて立ち上がった。
ジンも黙ってそれに続く。



暫く二人が歩いていると、前方で人だかりが出来ているのが目に入る。


「何かしら、アレ」


興味深々に呟くフウとは反対に余計なことに巻き込まれたくないジンは嫌そうに顔を歪める。


「やれー!」
「そんな奴さっさと潰しちまえ!!」


どう見てもヤっさん系の人だかり。

と、一人の男がその中から、取り巻きを蹴飛ばして出てきた。

そして、目が合う。


「あ」


「ちょっと何してんのよ!!」


「相変わらずだな」


傍目から見ても知り合いな感じの3人にヤっさんが群がる。


「オイ、あいつらも仲間だ!一緒にやっちまえ!!」


「えっ、ちょっと」


突然こっちに突進し始めたヤっさんに圧倒される。
と、体が浮いた。


「ええっ!?」


「逃げるぞ」


ジンが横抱きに抱き上げて言った。










それを追うのはヤっさんたち・・・だけではなく、ムゲンも物凄い勢いで追ってくる。

自分の前にいる男達、フウとジンを追って自分の前を走る男たちを薙ぎ倒し、弾き飛ばして追う。


「何でこうなるのよ〜〜」


ジンの腕の中で泣き言を言う。


「文句は後ろの奴に言え」


ジンに言われてジンの背中越しに後ろを見ると、ムゲンの姿。
もう追いついたらしい。


「もう、何でアンタはいっつも問題起こすのよ!!」


この状況を引き起こしていることに、喧嘩していることも相まってその怒りは酷い。
声のトーンも何時もより高いように感じる。

ジンは耳元で叫ばれて心底うるさそうに顔をしかめている。


「おい、ムゲン。お前はここであいつらをどうにかしろ。俺達は逃げる。」


「俺達だと〜?お前がどうにかしろ!!」


事を起こした張本人にもかかわらず、ジンの「俺達」という言葉に反発して言う。
そして、ジンの腕の中にいるフウをひょいっと小脇に抱えると「任せた」と言って走り去った。


「あの野郎・・・・」


怒りを湛えた目で前方を走るムゲンを睨みつける。


「ふん、まぁいい。丁度走るにも疲れた。」


そう言って、後始末にかかった。
















逃げていったムゲンとフウはというと・・・


「ちょっと!ムゲン!」


ヤッさんを撒いた後も自分を抱えたままあるくムゲンを足で蹴りながら言う。


「あんだよ」


「ジンを置いてきちゃって・・・心配じゃないの?」


それを聞いてムゲンは鼻で笑いながら返した。


「アイツがあんなやつらにやられるよーなタマかよ」


フウは「それもそうだけど・・・」と呟くものの、納得しきれない様子。
それを憮然と見つめるムゲン。


「・・・・悪かったよ」


「はぁ?・・・まぁとんだ災難だったけど」


この状況を招いたことに対することかと思いきや、違うらしい。


「ちげーよ!・・・あ、いや、違くはねーんだが、俺が言ってんのは・・・」


そもそもの喧嘩のことを言ってるということはすぐ分かった。


「あー、アレね。」


腕を組んで眉を寄せてムゲンを見上げる。
その「怒ってます」的なフウの様子にムゲンは「しまった」とも「面倒くせぇ」とも取れる表情で視線を泳がして頭をがしがし掻く。


「怒ってないわよ」


フウが発したのは覚悟していた言葉とはちがっていて


「あぁ?」


と思わず言ってしまった。


「だーかーらー、もういいんだってば!」


「・・・・・」


「もう、さっさとジンを探しに行くわよ!」


動かないムゲンに言って、手をひっぱる。

























寒空の下。
何が悲しゅうて
男探し。

夢幻

(字余り、句またがり?とにかくツッコミ所満載。)



「ほら、下らないことしてないでさっさと行くわよ!」


何処から仕入れたのか、紙に筆でさらさらと一句。


「まてまて、久々にキてる。俺、天才かも。」


書き終えたものを、しげしげと眺めて自画自賛。


「あのねぇ、誰のせいではぐれたと思ってんのよ」


そう言いながらも、ムゲン曰く上手くできたという俳句(?)をひょいっと取り上げて眺める。
ムゲンは何処と無く誇らしげで、フウはそれに呆れ返って・・・・


「・・・・駄作」


ぼそりと呟いて放り投げた。


「ああ゛っ!!」


後ろからそんな情けない声が聞こえてくるが、フウは無視して歩き出す。


「ちぇっ」


ぼりぼり、足を足で掻いて、ムゲンは今度はちゃんとフウの後を追った。





















「・・・ったくよぉ、あいつ何処行きやがったんだ」

30分も歩いたころの『しょうがねぇ奴だ』的な発言に


「アンタが言うな」


と、フウの鉄拳が飛ぶ。
ムゲンは当然ながら避けると、得意気にフウを見た。
それに対して、


「ガキ」


と悪態。


「何だ、負け惜しみかぁ〜」


嬉しそうに言うムゲンに、フウはこのままじゃ日が暮れてしまう、と無視を決め込んで歩く。
もちろんそれについていくムゲン。
まるでアヒルの親子。





「ねぇ、ムゲン」


後ろを面倒くさそうに歩くムゲンに呼びかける。


「あぁ?」


そっぽを向いていたムゲンに前を指差して、アレアレと言う。
山のように積み上げられた『ヒト』に眉を寄せてムゲンは興味津々に近づく。

フウも、ムゲンの背に隠れながら近づくと、中心にジンが座っていた。










「遅い」


ジンはフウとムゲンを認めて立ち上がった。


「ごめん!」


フウは両手を合わせて謝った。
そしてムゲンを見て、


「アンタも謝りなさいよ」


と、強引に頭を下げさせる。
勿論口から謝罪の言葉が出てくることはない。


そんな二人を交互に見て、「ちょっと待ってて」と言ってフウは走り去った。

二人してフウの背中を見送る。



ムゲンが何気なく下を見ると、倒れている男達が目に入る。
倒れているのは生きているものの、いつものジンの仕打ちにしては度合いが酷い。


「どうしたんだ、いつもと違うじゃねぇか」


倒れている奴を覗き込みながら言う。


「無論だ。誰かさんの為に時間を作ってやったんだ。憂さ晴らしもしたくなる。」


やはりムゲンに持ってかれたのを快く思ってないらしい。
ムゲンは完全にジンの言うことを理解していないものの、やはり自分が多少は悪いと思っているのか、バツが悪そうに空を見上げている。


「まぁいい、これで暫くは金には困んねぇだろ?」


さっとジンに背を向けて、転がる男共の懐からどんどん財布を取り上げていく。


「相変わらず悪どい奴だな」


そして静かに続けた。


「お前、大切なものはしっかり掴んでおけ。じゃないと」


何か力の篭っているジンの言葉に財布を徴収していた手を止めてムゲンはジンを見る。


「俺が持ってくかもしれんぞ」



続く












ううーん、ジンが攻撃的で次に続きます。
でも、どうしてもムフウになります。
ムゲンは自分の気持ちに薄々気づいていつつも、ジンのフウへの気持ちにまでは気が回ってない状況。
続きは例によってダラダラ日記に書き綴ります。
んで、それをまとめて、気が向いたら手直ししてこっちにupします。
すみません、芸が無くて・・・
でもでも、書き下ろし(日記に載せてないもの)はちゃんと、書き下ろしって書きますんで。
では

2005.11.24
久世