入場



西国の殺生丸の館は珍しく騒がしかった。

何と言ってもあの、人間を嫌いっていた主が人間の小娘を連れて帰館したのだ。


先代のときから傍に仕えている者は、また、比較的傍で仕えている者は主の毛には逆らう意志など毛頭も無く、りんを快く受け入れるつもりである。
だが、もちろん人間を快く思わない者もいるのも事実。

殺生丸は自分の乳母である、利衛を呼ぶと、


「りんの世話を申し付ける。決して私が良いと言うまで内殿から出すことは許さぬ。・・・・・決して目を離すでないぞ。」


それから利衛の補佐を勤める二人・万葉と刀菊を呼び、その二人にもりんの世話役に申し付けた。

利衛は鋭い殺生丸の眼光をものともせずに、暖かな笑みでもってりんを見下ろすと、「心得ております」と告げ、殺生丸に申し付けられて用意した部屋へとりんを連れて行った。


りんは利衛に手を引かれて城へと入っていくが、殺生丸や邪見、阿吽が気になって後ろを盗み見る。


阿吽は厩へと連れて行かれるのか、男に引かれている。
邪見はりんと殺生丸を交互にみて、何処か落ち着かない様子。
そして、殺生丸は、傍にいる者に色々と申し付けていて・・・・

はた、と目があった。

そして近くの者に2,3申し付けると、りんの方へと近寄ってきた。
それに気づいて利衛も足を止める。


「・・・・・私が連れて行く。」


りんが不安にしているのを感じ取ったのかそうでは無いのかは定かではないが、殺生丸はそう言うと、りんを抱き上げてさっさと城へと入っていった。

それにびっくりしたように唖然とするのは、その場にいた者すべて。
否、邪見と利衛はいち早く意識を取り戻し、その二人の後を追いかけたのだが、後の出迎えた者はまだ主の行動に呆気に取られている。
城に入ってからも、妖怪たちは主に頭を下げながらも興味津々にりんを見る。
というか、主の腕の中にいるりんを見て固まる。
冷酷残忍な主が事もあろうに人間の娘をその腕に抱きかかえているのだ。


りんは突き刺さる視線に居心地の悪さを感じながらも、黙って殺生丸の腕の中で大人しくしていた。






























ようやく内殿に入って、視線も幾分和らいだ頃。
りんは黙って自分を抱きかかえて歩き続ける殺生丸に話しかけようか、かけまいか迷っていた。
何しろ、此処は人間であるりんには無縁の土地。
自分はここでどうなるのか。
どうすれば良いのか。
全く検討もつかない。


暫くあって、りんは聞くことにした。


「殺生丸さま」


その言葉に殺生丸はりんに目を落とす。


「りんは此処で何をすれば良いの?どうなるの?」


その目には怯えは無いが、やはり多少の不安は伺える。


「・・・・・・・何もしなくて良い。暫くは、私の傍に居さえすれば良い。」


落ち着くまで半年はかかるだろう。
外の者まで納得させようとは思わない。
ただ、半年でこの城の者にりんの存在を納得させる。
そうすれば多少は外に出られるだろう。

殺生丸は、人間を此処へ連れてくることがどんな事になるかは重々承知していた。
おそらく批判も出てくるのは必至。
しかし、それと同時に城の自分の最も近くにいる者は信用していた。
そして自分がこの城の者を納得出来るだけの力もあることも、過信ではなく、分かっていた。
だから連れてきたのだ。


「・・・・?」


りんは首をかしげる。


「・・・・・着いたぞ。此処がお前の部屋だ。」


そうこうしているうちにりんの部屋へと着き、殺生丸は躊躇うことなく中へと入った。
そして腕からりんを下ろす。


「ここがりんの部屋・・・?」


広い部屋。
決して華美過ぎはしないが、調度品は品が良く、さりげなく置かれている花瓶などでも高値がつくのが分かる。
しかし、りんにとってはこの部屋は豪華すぎて、驚きを隠せずに殺生丸を見上げた。


「・・・・・・・私の部屋はこの隣だ。」


それにりんは嬉しそうに顔を輝かせた。


「失礼いたします。」


そこに利衛が、万葉と刀菊を連れて入ってきた。


「全く、若様といったら勝手にりん様を連れてずかずかと内殿に入ってしまわれて・・・・。」


咎めるような物言いに殺生丸は目を伏せた。
どうやら自分の乳母である利衛には流石の殺生丸も強く出れないようだ。


「さ、若様は御政務にお戻りくださいませ。りん様のことはわたくしと万葉と刀菊が。」


それに舌打ちすると、


「決して目を離すことは許さぬぞ。」


とだけ言いつけて部屋を出て行った。


利衛は平然と笑って受け流すものの、その身も凍りつく主の物言いに後ろの万葉と刀菊はいささか萎縮して頭を垂れた。




「さ、りん様、まず湯浴みをなさいませ。」


優しく微笑む利衛にりんはほっとして、いつもの微笑みで頷いた。


















終+続












城に入ってしまいました〜!
もうちょっと書く予定だったんですが、眠いので、ここらへんで止めておきます。
では、また近いうちに更新致します。
久世