こうして密かに始まった逢瀬・・・とまではいかないが、二人で過ごすひととき。
柄にも無く心を躍らせているのは事実。
ドラコは朝が苦手なのにも関わらず、行けないとき以外はせっせと朝の散歩をハーマイオニーといそしんでいた。
ハーマイオニーも、普段は身だしなみをろくに整えずに、あの朝の読書を行っていた訳だが、最近は、出て行く前に鏡の前で身だしなみ、特に髪の毛をチェックしてから出て行くようになった。
その時間に起きることのない、同室の人たちは、そんなハーマイオニーの変化に気づくはずもなく、朝の散歩から帰ってきたハーマイオニーにのんきに「相変わらず早いのね」というのみ。
こんな時間には誰も来ない、という多少の安心感。
それでも誰かが来るかもしれないという多少のスリル。
その矛盾した感覚をもちながら今日も二人は朝会う。
「おはよう」
いつも先にいるのはハーマイオニー。
そしていつも先に声をかけるのはドラコ。
いつものように本を読む自分にかけられた言葉にハーマイオニーは嬉しそうにはにかむ表情を押さえながら
「おはよう」
と返す。
二人の間に確実に積もりつつある恋情。
危険だ。と認識しながらもこの朝のひとときを止めることが出来ない。
この、ほっとする時間を捨てることが出来ない。
話すことは当たり障りの無いことから、深いことまで。
ドラコには、自分の、本当のことを言う人が周りにはいない。
初め、誰にも言う事のできない自分の内面のことを言うのはためらわれた。
どう考えても敵という位置にいた(いる)ハーマイオニーにそんなことを言って、笑われないか。広く公にされないか。正直びくびくした。
が、この自分の内面に積もるものを吐き出したかった。
不思議と、そういうことを人に聞いてもらうと、それだけで多少楽になるものだ。
なおかつ、ハーマイオニーは相槌をうちながらも、必ず最後まで聞いてくれる。
そして、何か言ってくれる。
そのことによる安心感が、ドラコには心地よくて、苦手な朝でも、無理をしてくる理由のひとつだ。
「どう、調子は。」
ぼーっとしているドラコを心配してかどうなのか、ハーマイオニーは手の本を閉じてドラコを見ながら言った。
「いや、どうもしないさ」
ドラコは、何でもない顔でそう言うと、ハーマイオニーを立つように促した。
実際、ドラコの心中は穏やかではなかった。
自分はハーマイオニーに自分のことを相談したり話したり。
というか、そういうことを話せるのはハーマイオニーしかいない。
だが、ハーマイオニーには、ジニーがいるし、何より『親友』と主張するハリーとロンがいる。
そのことがドラコは気に食わない。
貧弱な独占欲とでも言うべきなのか。
ドラコは自嘲気味に笑った。
「ちょっとやっぱり変よ、マルフォイ。」
その様子を見ていたハーマイオニーはそう言う。
それにドラコは苦笑して言った。
「ちょっと考え事をしてただけさ」
と。
ハーマイオニーは「そう」と返すとそれっきり何も言わずに歩いた。
他愛も無い授業の話や、今、同室の女の子の中で流行っていること。
だが、ハリーとロンのことは何故か言うのは憚られた。
きっとその話題をだしてしまったら、この微妙な、崩れそうで崩れない関係を壊してしまいそうだから。
この朝の逢瀬は確約している訳ではない。
二人の間に確実な関係なんてものも無い。
だから、刺激するようなことはしたくなかった。
この時間を大切にしているのは二人とも。
それでもこの逢引を確実に出来ないのは二人とも臆病だから。今自分達を取り巻く環境を壊したくないから。
二人とも同じことに怯えているから、その態度を非難することなんて出来ない。
「もうすぐ舞踏会だな。」
ぽつりと考えを巡らせていると、ドラコの口からそんな言葉が呟かれた。
「君は、出るのか?」
そう言われてハーマイオニーは、舞踏会のことを久しぶりに思い出した。
二週間後に舞踏会が開かれることになっている。
そして舞踏会に上級生から誘われていることを思い出して顔をゆがめた。
誘われたとき、どうしても気が乗らなくていると、今度返事を聞きに来ると言って去っていったが・・・
正直ドラコと出たい。
が、そんなこと言えるはずもなく、
ハーマイオニーは答えずに聞き返した。
「マルフォイは?」
ドラコは少し考えてから、余り興味が無い。と言った。
貴方が言い出したのに変な話ね。と、ハーマイオニーは笑いながら言う。
暫く間があって、思い切ってドラコは聞いた。
「君は誘われてるんだろ?」
「・・・・えぇ、でも、彼と行く気は無いわ。私も興味が無いのよ。」
実際興味はある。
けれど、やっぱりそういうのは、好きな人と出なきゃ意味が無いと思うハーマイオニーはそう言った。。
その答えにいささかほっとしたようにドラコは表情を緩めた。
ドラコは誘いたい気持ちでいっぱいだったが、中々口にできなかった。
舞踏会 に続く。
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