山はすでに紅葉を終え、ちらほらと葉を落とし始めた。
そろそろと冬が近づいている。
「寒いよ〜〜〜」
身を震わせてりんは阿吽に寄り添った。
「寒いね、阿吽」
両手で自分を抱きしめるように寒さを耐えるりんは阿吽の顔を見上げながら言う。と、阿吽は両方の顔を暖めるようにりんに擦り付けた。
「ありがとう」
それに顔を綻ばせて、阿吽の頭を優しく撫でる。 一人と一匹は堂の中に居た。 数時間前に殺生丸は「すぐ戻る」とだけ告げて邪見と共に飛び立っていったのだが。 もう冬が近づき始めている山は当たり前だが冷たい風が吹き降ろしてきて、とても外で待っていることは出来ない。
「ほんとは外で待ってたいんだけどなー」
阿吽の両頭の間に寄りかかって座りながら呟く。
「こういう時こそ殺生丸さまのもこもこが活用できる時だと思うんだけどなぁ〜」
ね、阿吽。
目で呼びかけると阿吽は応えるように鳴く。
とくん、とくん、と聞こえてくる阿吽の心音と、阿吽の温かさにりんは、こくりこくりと夢へと足を踏み入れ始めた。
阿吽はそれに気づいて、冷たい地面に横たわらないようにりんを両首、両頭でりんを支えた。
それからいくらか、りんがまどろみの中にいると、堂の扉が音を立てて開かれた。
りんと共に、りんを支えつつ瞳を閉じていた阿吽は瞳を開けて入ってきた人物を見上げた。 その僅かな阿吽の動きにりんは覚醒し、同じく見上げると殺生丸の姿。
りんは眠そうに瞳を擦ると、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「殺生丸さま・・・・」
殺生丸はりんの傍に行くと、手に持っていた着物をりんの上に落とした。
「・・・羽織れ」
それはりんにとっては大きく、殺生丸のものだということが分かって、りんは嬉しそうに殺生丸を見上げた。
「無いよりはマシだろう。」
りんがいそいそと袖に手を通して羽織るのを確認すると、殺生丸はりんを抱き上げた。
「・・・?」
急に抱き上げられたことから殺生丸を不思議そうに見るりん。
「今から城に帰る。」
短く告げると、阿吽を立たせ、堂の外へと出た。
そこには邪見が立っていて、嬉しそうな、でも少し厳しい顔をしている。
「・・・・邪見さま、どうしたの?」
「なっ何でもないわい!」
邪見は頭をぶんぶん振ると、殺生丸の顔を伺った。
どうやら邪見は城にりんを連れて行くことに嬉しいながらも不安を覚えているようだ。
実は出かけていたのは城でりんを迎え入れる用意をしていた訳だが、人間を迎えることを良く思わない輩が少なからずいる。
尤も、内殿にて使えている者は、殺生丸の指示に逆らうことは無いため、内殿に居る限りでは安全なのだろうが、やはり多少りんの安全が心配に思う邪見はこうして殺生丸の顔を伺っている訳である。
そして、殺生丸からの「大丈夫だ」という確約の言葉を聞いて、安心したいのだろう。
「・・・・危険な場所へと連れて行く訳が無かろう」
それを知ってか、殺生丸は邪見を見ずに言った。
「はっそうで御座いますな・・・」
邪見は幾分ほっとしたような顔で言った。
「お城って、殺生丸さまのお城・・・?」
「そうだ」
殺生丸は阿吽にりんを乗せながら言う。
「これから更に寒くなる。」
お前はそれに耐えられぬだろう。
続く言葉は心中で呟く。
「・・行くぞ」
そう言って、三人と一匹は殺生丸の城へと向かい始めた。
終+続
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