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死ぬところを、ルアンが助けてくれた。
今、まさに第二の人生を歩んでいるのだ。
急に今までの生活とはかけ離れた環境に放り投げだされた私の傍にいてくれるルアンは、私の世界になった。
Childhood #2
「ねえ、ルアン、あなた、何でまた私みたいな人間を助けようと思ったの?」
は、自分の前の悪魔に尋ねた。
「暇つぶしだ。」
ルアンはそれだけ言う。
いつも、この回答しか得られない。
「そう。」
もいつものようにその回答について言うと、手元の小説に目を落とした。
「明日から中学よ。ほんと、2度も中学生をするなんて思わなかったけれど、中々楽しそう。ルアンも一緒に中学生をやってみない?」
ルアンは思案するように顎に手を当てた。
「・・・考えておく」
あまり乗り気じゃないルアンの答えには苦笑した。
「一緒に学生生活を楽しもうよ。ルアンがいないと、私の『世界』は動かない。きっとルアンがいないとつまらない。」
ルアンがいつも側にいてくれるからは落ち着いていられる。
小学生までは、学校の時間が短いために、ルアンとの時間は多かった。
しかし、中学に進学すると、学校での時間が大きくなる。つまり、ルアンとの時間がなくなるということ。
「高校、とやらになら入っても良いな。どうせ、中高、大学まで同じ敷地内にあるのだろう?」
「じゃあ、中3。譲歩して、中3よ。」
ルアンはいいだろう。と頷いた。
翌日、はルアンと共に氷帝学園へと赴いた。
入学式は退屈で長く、は本を持ってくれば良かったと後悔しながら理事長の話を聞いていた。
入学式が終わり、各クラスへと分かれていく。
きゃーきゃーわめく女の子が五月蝿いな〜と思っていたら、どうやらその元凶は自分の前にいる、男のせいのようだった。
泣きぼくろに、端正な顔立ち。
騒ぐのも無理ないな。
は心の中で呟いて、顔をしかめた。
とにかくさっさと教室へ入って、この五月蝿さから逃れたかった。
「おい、お前」
急に、声をかけられた。
「・・・何、跡部景吾くん」
「ほお、俺の名前を知ってるのか」
「あなた、総代だったじゃない。」
は興味無さげに言った。
「ああ、そうだな。・・・お前、名前は何ていうんだ」
「、よ。」
は答えた。
簡潔に。
「お前は、他の奴らとは違うな。俺と同じ匂いがする。」
どういう意味かしら。
は訝しげに跡部を見た。
「俺らは、他の、バカな奴らとは違うってことだ。」
ああ、一人はいる、俺様タイプね。
は冷めた頭でぼんやりと考えると、適当に受け流すことにした。
「随分な言い方ね。」
「本当のことだ。」
二人はそこで話を切った。
教室に到着したのだ。
は後ろの方の窓際の席に座り、何故か跡部はの前に座った。
それから担任の話を聞きいた。
幸い、担任の話は短くて済んだ。
担任は話を終えると、10分休み時間だと告げ、次の時間は自己紹介をすると言って教室から出て行った。
「フン、自己紹介なんざする必要ねぇな。」
「・・・・」
は自分に話しかけられたものとは処理せずにぼんやりと窓の外を眺めていると、不機嫌そうに跡部がの頭を無理矢理自分の方へとむかせた。
「・・・ああ、私に言ってたの?そうね。自己紹介の必要性なんて無いわね。」
はそれに付け加えた。
「ま、貴方の場合は、自分のことは知っていて当然だが他人には興味無い。といったところかしら。私は純粋に必要ないって思うだけだけど。」
跡部はくつくつと面白そうに笑った。
「益々気に入った。」
「それはどうも。貴方に気に入られてもメリットは無さそうだけど。」
「貴方、じゃない。景吾だ。」
は跡部を奇妙なものを見るかのように見た。
「名前で呼べと?」
「そうだ。」
は話にならない。とため息をついたが、どうやら跡部は引き下がりそうにない。
名前如きで時間を無駄にはしたくなかったので、は言った。
「分かったわ。景吾。」
跡部は満足そうに笑うと、入ってきた教師に気付いて時計を見た。
お、ブルガリか。良い趣味してるわね。
はその仕草を見て、無感情にそう思った。
かく言うもブルガリの時計を愛用している。
「休み時間はもう少しで終わりか。」
跡部は舌打ち混じりに言った。
は解放される、と喜ばしく感じられたが、それを顔には出さずに、そうね。とだけ答えた。
「は部活は何に入るんだ?」
言われて、は少し思案した。
前中学生やったときは、茶道部に入っていた。
1年で辞めたが、それ以降は何の部活にも入らなかった。
「何に入る気も無いわね。面倒なのはごめんよ。」
跡部はそれを面白そうに聞くと、口を開いた。
「この学校では必ず何かの部活と委員会に属しなきゃなんねぇ。ま、1、2年は適当に何か入っとけ。」
「は?何で1、2年なのよ。」
跡部は意味深な笑みを浮かべた。
「1年でレギュラーは無理だからな。2年になって俺様がレギュラーになったら、テニス部のマネージャーになれ。マネージャーは今いねぇが、今、マネージャーになったら 今のレギュラーの世話しなきゃいけねぇだろ?俺以外の世話なんざやる必要ねぇからな。俺がレギュラーになったらマネージャーになって俺様の世話をしろ。」
は跡部がそう言うのを呆然と聞いていた。
「貴方って「景吾だ。」・・・景吾って、相当な俺様ね。」
「悪ぃか?」
あまりにも跡部が自信満々に言うものだから、かえって清々しくて、は笑ってしまった。
「いえ、景吾らしいわ。じゃぁ景吾はテニス部に入るのね。」
「当たり前だ。3年になる頃には部長になってみせるさ。」
そこでチャイムが流れ、自己紹介の時間が始まった。
淡々と進む自己紹介の流れの中、跡部はその流れをの予想通り崩した。
派手なパフォーマンスで女子の生徒は黄色い声をあげ、は耳を押さえて跡部を睨み付けた。
それから自分の番では、そっけなく自己紹介をし、さっさと席についた。
自己紹介の時間も終わり、帰りのホームルームが始まって、が何気なく廊下を見ると、保護者に混じってルアンが立っていて驚いた。
黒髪に赤い瞳という珍しい出で立ちのせいか、周りからは面白そうな目で見られていて、まるで見世物状態だ。
不機嫌そうに佇むルアンが彼らしくて、は苦笑した。
ホームルームの間に帰りの荷物を全てまとめて、あとは席を立つだけという状態にしておく。
そして、ホームルームが終わって解散すると同時に席を立った。
跡部が何か話しかけて来たが、は適当に流して、ルアンの方へ歩いて、横に並ぶと、2,3言交わして二人で歩き出した。
「・・・・・・、あの人間が見てるぞ。」
からかうような響きがあるが、は不機嫌そうに顔を歪めただけだった。
「厄介なのに気に入られたようだな。あのタイプは面倒だぞ。」
「分かってるわよ、十分。」
はぁ、と溜息交じりに言うと、ルアンは面白そうに笑った。
「まぁ、そう不機嫌になるな。俺も此処に通うことにするから。」
「えっホント?」
「ああ」
頷くルアンにはうれしそうに微笑んだ。
「で、何年生になるの?」
出来れば同じ中1が良いんだけど・・・と続けながらが問うと、ルアンは面白そうに笑って答えた。
「ま、当日になってのお楽しみってヤツだな。」
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